名前を呼ぶよ ページ18
薄らと向こう岸が明るくなっている空。しかし夜明けにはまだまだ早いようだ。Aは軽くなった身体に未だ驚きながらもランドマークタワーへの入口へと辿り着く。運営時間でもないのに勝手に開く自動ドアに既視感を覚える。静寂に包まれた館内を進み、エレベーターが示すのは69の数字。扉が開き最初に目に入ったのは先程と同じ薄墨色の空。そして、その色とよく似た蓬髪の男が立っていた。
表情はよくわからない。小さく「やぁ」と声をかけたまま言葉を発しない男に痺れを切らし男の前へと足を運ぶ。
『太宰』
太「…知りたい?」
なんだ、その聞き方と腹わたが煮えくりそうになった。キッと男の目をみると巻かれていた片方の包帯が無いことによって、表情がよくわかる。それを見て、悟ってしまった。
『……死んだ、のか』
こくり、と目の前の男が肯く。本当は頭の何処かではそうだろうと理解している自分がいた。でも、そんな事を受け入れてしまっている自分が嫌で…
太「兄さん…?」
太宰がAの頬を触る。触った後の太宰の左手には水滴。
太「兄さんが泣いている所、初めて見た」
『泣いて…?』
目元を触り、理解する。それが引き金になったのか、次から次へと溢れ出す涙に止めることができない。最後に泣いたのが思い出せないほど久しぶりにみる自分の涙に、必死に目元を拭う。
太「兄さん」
慰めるように、もう一度Aの頬へと手を添える太宰。目を瞑り涙を拭っていると、瞬間唇に何かが当たる。何か分からず目を開けると、目の前には太宰の顔。それに気づいてか、唇に感触が消えるのと同時に太宰の顔も離れる。
太「泣き止んだね」
其処には、初めて出会った時の幼い彼はもうどこにもいなかった。大人びた笑みを浮かべる太宰を見て、何が起こったのか理解するA。
太「私ね、兄さんに伝えたい事があるんだけど…聞いてくれる?」
こくり、と肯くとまた嬉しそうに微笑む太宰。緩くなったネクタイをきつく結び直しながら、こほんと1つ咳払い。そしてAの背中へと腕を回す。
太「好きだよ」
吐息交じりに発せられた告白に、自然と左耳が赤くなる。
太「だから、私の傍を離れないでくれ……A」
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なに - 読みやすくて3作品夢中に読んじゃいました!すごく続きが読みたいです!一年前の作品ですがよければかいていただきたい!!! (1月1日 23時) (レス) @page34 id: 609d62ddb9 (このIDを非表示/違反報告)
三斗(トリップ願望者) - ぇ…終わっちゃったんですか・・・?続きかければ書いてください!絶対読みます‼ (2022年7月11日 22時) (レス) @page35 id: 9ad11557a3 (このIDを非表示/違反報告)
Rio - 無理はなさらずがんばってください!! (2022年3月7日 22時) (レス) @page35 id: 663ca84b4d (このIDを非表示/違反報告)
甘党 - 頑張って下さい!!更新待ってます (2022年1月22日 13時) (レス) @page35 id: 577366e2a2 (このIDを非表示/違反報告)
あの - 更新頑張って下さい!応援してます! (2022年1月7日 19時) (レス) @page35 id: 347eae7089 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まっぽ | 作成日時:2018年1月8日 23時