最年少幹部部下となりました ３冊目

苦労の記録１０８ ページ8

カタカタ、とパソコンを打つ音が響く
窓を見ると、桜の花はすっかりと散ってしまった街の風景が見える。

「どこ見てんですか〜？」

穏やかな日だというのに、此奴が現れたせいで台無しだ。例えるなら味噌汁に苺を入れられた気分。
厭そうな顔をして、声の発生源の方を振り向く。



「関係ないでしょ、早く報告書書き上げて」
「終わらせました〜！」


ぴし、と私の心にヒビが入る
もう終わらせただと、私はこんなに時間が掛かっていると言うのに？
何かズルでもしたかと、立ち上がって志賀の机を見るも、出来上がった書類が綺麗に並べられていた。

「ね？終わってるでしょう〜？」
「喋り方が腹立つ」


何なんだこいつ、才能マンかよ。

「そういえば。結局、forest殺人の首謀者ってどんな奴なんでしたか〜？僕よく知らないんです」
「そうだよね、呆気なく捕えられたもんな」


パソコンから目を離さずに志賀に厭味を言う。
あと何枚残ってるのだろうかと考えるのは止めにした。

「その呆気なく捕えられた奴より書類仕事遅いですね〜」
「るっさいなあもう！！何処か行けよ！」


ガシャン、とパソコンのキーを叩く。このキレやすさは何処から来たのだろう、此方の世界に来てからな気がする。
志賀は怒る私をよそに、今度は私のパソコンを覗き込んできた。

「…えっ？！」
「何？邪魔」
「彼奴僕に化けたんですか？！」
「……あれ、言ってなかったっけ」

言ってませんよ〜！と驚く志賀の声をバックに、あの日のことを思い出す。
あれは驚いたな、足音が全然違う癖に志賀の姿をしてるのだから。

「ちゃんと見分けました〜？」
「当たり前でしょ。あんたみたいな奴、そうそう二人もいないんだから」


さらりと告げたその言葉を最後に、再び仕事に取り組んだ。

もう志賀が喋りかけても無視しようと決めたが、本当に志賀が何も言ってこない。
不思議に思って、パソコンから志賀の方へ視線を移動した。


「え、何してんの」
「……耐えてます」

何をしているかと思えば、志賀は下を向いて、腕を組んだまま静止している。
どうやら耐えているらしい。……え、なにに？


「そーいや、太宰幹部と何話したの？」

てっきり説教で五時間くらい帰ってこないと思えば、あっさり幹部室から帰ってきたのだ。いったい何を話したのか。
志賀はきょとんとしてから、愉快そうに笑った。


「あー…───宣戦布告？」


何それ、と不審がる私の机には、紙飛行機の折り跡がつかれた書類が置かれてあった。

苦労の記録１０９→←太宰治の独白 １０７

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す