北に生まれた生物としての本能 ページ41
.
空を切った手は、もう自分のものではなくなった。
獲物をしとめ損ない、しかも突如視認していた魔力は傍らにいる。それに気付いたウェンディゴは
「風に乗りて歩むもの」という肩書きと残虐性を史に刻んだように
突風なんて言葉も生ぬるいような、この激しさを表す言葉を探す間もなく
密で、方向もぐちゃぐちゃな、突き上げるような乱気流を自身と私を中心に引き起こす。
思わず舌打ちをしてしまう。
だって、地表に降り立ったしもうこのまま一気にのしてやるつもりだったのに
また上空へ放り出されて、しかも一所に方向性の定まらない強すぎる風が留まってしまっては
さしもの私だって四肢がもげるような気がしてくるわけで。
…別に怪我したくないとかじゃないのよ？
どれだけ怪我したって、最後に勝った者が勝者なんだから。
ただ、ねぇ……？
服も、雪も、心も汚したくはないわけ。
心、と言ってもその時の単純な気分だけど、血みどろになったら気分も滅入るわけで…
それでも勝ちに酔えるのは殺意高めの北の魔法使いくらいなもので
様々な国の特性に適用してしまったがゆえだろうか
ミスラみたいに単純にもなれないし、オーエンみたいにポンポン死ねる訳でもない。
超現役のイキり時代ならまだしも、今はそれ程殺伐としていないし…
単純に不便というのともあって四肢を捩じ切られたり、骨を折られたりするのは困る。
血や肉片が媒介に使われる可能性も考えれば、後処理も含めて面倒くさい。
風が強すぎて最早強固な壁…その内側にいる今なら、さしずめ包囲網だ。
おかげで箒をこっちに呼べないから体勢を直すとかよりも
サッサと力押しで終わらせる方が手っ取り早いか。
こういうところは結局私も北の魔法使いなのよねと、呆れつつ自己完結してしまう。
お巫山戯交じりな思考もここまで。……さて、屠るか。
少し先端のネイルも禿げてしまったその手で魔道具を握り直し
強風に抗いながら真下の怪物に剣の切っ先ならぬ女の武器の切っ先を向け、狙いを定めた。
風でブレそうになる腕をか弱い女の力で抗い続け
やつを一発で仕留められる急所を頭上から
あるかも知れない脊髄をぶち抜くその一点を狙う。
年に一度、必ず誰かと共に魔法を使う。
そのサポーターとして、私の享楽ともいえる「行為」を通して
繊細な魔力の使い方も嫌いじゃない。むしろ大好き。
でも、やはり魔力を制限なく使うこともとてつもなく気持ちがいい。
前者の快感を恍惚というなら、後者は悦楽。
呪文を乗せた唇は間違いなく、弧を描いていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 243人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
睡-ｽｲ-(プロフ) - 雪女さん» コメントありがとうございます。その辺がお好きなのですね…今後の描写の参考にしてみます！ (2022年12月19日 20時) (
レス) id: ab84331ee7 (このIDを非表示/違反報告)
雪女 - 更新楽しみにしてます。シャイロックとオーエン、双子との絡みが楽しみです🙂 (2022年12月18日 22時) (レス) id: 883542d863 (このIDを非表示/違反報告)
睡-ｽｲ-(プロフ) - Senaさん» 長らくそのままにしていたコチラの作品に反応頂きありがとうございます、コメントがあるとやる気が出るので嬉しいです…！2章が良すぎて出戻り夢小説ですがちまちま更新するのでお待ちいただけますと幸いです！！ (2022年5月19日 14時) (レス) id: ab84331ee7 (このIDを非表示/違反報告)
Sena(プロフ) - わ、わ、久しぶりの更新ありがとうございます！ (2022年5月19日 6時) (レス) id: 61121e16fc (このIDを非表示/違反報告)
睡-ｽｲ-(プロフ) - �盒兇気�» 感想コメントありがとうございます！こちらのババア(見た目詐欺)夢主は自由人として書いておりますので、内面を気に入っていただけたようで嬉しいです。自分のペースで、ではありますが頑張ります！ (2021年8月26日 0時) (レス) id: deb52841c7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：睡-ｽｲ- | 作者ホームページ：https://twitter.com/sleep_d_urtk?s=09
作成日時：2021年8月12日 18時
