Necromance93 ページ43
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____夢を、見ていた。
俺の夢じゃない。これは、彼奴の…藤崎翔の、夢。
見えたのは、大人の男二人の背中。海の見える喫茶処で。
片方は桜髪の男。翔だ。もう片方は…優しい赤髪の男。砂色の外套。あぁ彼は…織田作之助。俺の恩人だ。
…夢ではなく、これは…記憶か。不思議な空間の中、そう考えて居ると…明るい声が聞こえて来る。
『ねぇさくすけ!海がしょっぱいのはね。小さい頃俺が塩を撒いたからなんだよ』
『そうなのか…凄いな』
冒頭からそんな会話を聞いた俺は、おかしくてふっと笑ってしまった。んなわけねぇだろ。それを簡単に信じる作之助も作之助だ。
『懐かしいなあ、さくすけと初めて会ったのも、海だったよね』
『あぁ…翔が海の中に歩いて行くのを見た時は…驚いた』
『あれね……あれは…そう!潮干狩りしてた』
それは潮干狩りなんかじゃ無くて、本当は。けど作之助は踏み込まず、『潮干狩りか』と頷いて居た。これがきっと、二人の仲が善かった理由だと思う。
『さくすけには、夢ってあるの?』
『……ある』
『へえ!どんなどんな!』
翔は作之助に、目を輝かせて聞いた。それはまるで子供の様に。彼奴、こんな子供みてえな一面もあったのか。それも、作之助の前だからか。
『そんな大層な夢じゃない』
『きーきーたーいー!おーねーがーいー!』
『判った判った』
駄々をこねる翔に参ったのか、作之助は肩を落としてゆっくりと話し始める。
『…小説を、書きたい』
『小説?』
『あぁ』
暫くの沈黙が続いたあと、翔がバンと机を叩いて席を立ち上がる。何事かと、作之助が目を丸める。
『めっっちゃ!素敵だね!!読みたい!何時?何時書くの?書けたら見せてよ!太宰君の次の次の次でも全然善いからぁ〜!!』
翔の白手袋が作之助の手を取り、それをブンブンと振る。作之助は真顔のまま揺られていた。
『小説の表紙!俺に描かせて!え?駄目?駄目でもお願い!』
『表紙か…。翔は絵が上手いからな。頼む』
『やったあ!』
____なんてそれは、叶わない夢だった。藤崎翔。彼は視えていた。織田作之助が小説を書く、ある『並行世界』を。今までは視えていた。
然し藤崎の異能が発揮しないこの精神世界では、その『並行世界』を視る力も途切れ…結局、どんな形でも、完成した彼の小説を読む事は…出来ないまま。
またね。目覚める日まで。そんな日が、あるのなら。
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何処かの誰かのノート
彼奴を必ず救う。絶対に。
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ekakisitemasu(プロフ) - 1番最後の何処かの誰かのノートの彼奴を必ず救う。絶対に。で大号泣しました、、、、 (2022年10月21日 23時) (レス) @page50 id: 583e2155f1 (このIDを非表示/違反報告)
愛(プロフ) - 天才 (2022年4月29日 13時) (レス) @page50 id: 1cfd8c976c (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - ファイさん» ありがとうございます…!笑って泣けるような作品にしたくて書いておりました!こちらこそ埋もれていたであろうこの作品を見つけてくれてありがとうございます、とても嬉しいかぎりです…!!!本当にありがとうございました! (2021年11月27日 0時) (レス) id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
ファイ - アッ……ヤバイ エッ俺の心臓無事?大丈夫?あ、好き 主様本当にこんな素晴らしい作品を書いてくださり有難う御座います大好きです応援してます大好きです。 最初見たとき大号泣してしまいました。 本当にこんな素晴らしい作品を書いてくださり有難う御座います神! (2021年11月16日 18時) (レス) @page50 id: 1f415ed449 (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - 白鳥さん» あわわ、ありがとうございます.......!是非に!!!!私も白鳥さんのような方に出会えて嬉しさの極みでございます…ありがとうございます.......!!! (2021年4月30日 17時) (レス) id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
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