傷だらけの君を、描かせて呉れ。【文豪ストレイドッグス】−不浄編−

Necromance８３ ページ33

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「…太宰君」



「何だい？」




狭い路地で向かい合う二人。藤崎は壁に背を当て、座り込んで居た。対して太宰は、桜髪の男を見下ろす様に立って居る。



「…きっともう、君の身体も…生贄に蝕まれてるから…効果が出るまで少し、時間が…掛かると思うけど…」



藤崎は懐中から何かを取り出し、太宰に投げる。パシンとそれを受け取った太宰。手を広げて、掌に乗るそれを見た。青と白の小さなカプセル。サクリファイスの対抗薬である。



「……翔。君を信じる訳ではないけれど、これは有難く頂戴するよ。まぁ、これの成分は知って居るのだけどね」


「あはは……全く、何時の間に…怖いなあ…」



「お互い様」と太宰が呟き、その薬を服用する。それを確認して、藤崎は左の足首に手を伸ばした。足首に忍ばせて居た短刀を取り出すと、壁に支えられながらふらふらと立ち上がり、金色の瞳で太宰を一瞥。



「悪いね…太宰君。俺があと一時間早く起きて居れば…この大惨事…『連続爆破事件』は未然に防げた筈だったんだけど…昨日飲み過ぎて、寝坊しちゃった」


「本当だよ。解除は君に任せてあったのにぃ。国木田君達と車に乗って居たらいきなり目の前で爆破したから真逆と思ったらその真逆。寝坊とはねえ！」



へらへらと笑いつつ、藤崎の左手に持つ短刀にちらりと視線を移す。お互いに不気味な薄笑いを浮かべ、しんとした静寂が訪れる。すると…ゆっくりと、凶器が太宰に向けられた。


内臓が破裂する程の痛みに顔を歪め、肩で息をしながら震える手で。嘗ての友人であるその友人に、凶器を向けている。



「ごめんね。これしか、無いんだ。この惨状を止められるのはもう、アイザック君しか居ない。彼の力を引き出すには、激情が、必要なんだ。彼の異能は、俺が一番善く判ってる。ごめん、ごめん太宰君…、さくすけ」



これしか無いと云う割には、未だ迷って居る表情の藤崎。表には出さずとも、太宰の事だって大切なんだ。

織田作之助。彼に関係するものは全て。でも…、彼に関係すると云うだけでは無い。


刃の先を太宰に向けたまま俯いて居れば、太宰の手が藤崎の手首を強く掴んだ。はっ、として再び太宰と目を合わせた。




「予測済みさ。さあ、刺し給えよ。この街の為なのだろう。それとも何だい？私の方が大事かい？」



「街なんて…如何だっていい。俺は、俺の役目は……あ、れ」




藤崎翔として。『均衡者』として。最大の葛藤が、桜色の彼を襲った。


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何処かの誰かのノート

彼奴を必ず救う。絶対に。

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