君の世界に、意味を与えよう。Act2【文豪ストレイドッグス】

salvage７０ ページ20

_


中原の重力が効かなかった。少女は自身の周りにのみ、異能の無い空間を作り上げて重力を免れたのだ。



「待って」



太宰は、体術戦に持ち込もうと踏み込んだ中原の前に手を出して止め、逃走を試みる少女にそう呼び掛ける。今はまだ敵意の無い太宰の声に、少女はぴたりと足を止めた。



「私は太宰。太宰治だ。こっちが中也。君の名前は？」


少女はじっと二人を一瞥した。淡い赤色の唇が開いて、少女が声を放つ。



「それを聞いて何になるの。あの人と同じ様に捕らえる心算？」



少女の声は高めだが、何処かレイと似た声を感じ取れた。太宰は肩を竦め、薄く微笑んだ。



「いや？私に彼以外の隷属者は必要無い。それに隷属部隊に、彼以外の強者が存在してはならない。『均衡』が崩れるからね」


「…あの人を選んだのが間違い。頭悪いし、すぐ忘れるし、まだ完全に制御が出来てない」



少女とレイなら、レイの方が莫大な力を所持して居る。故にレイは未だに制御が効かない。



「そういや手前、レイに似てんな。肉親か？」



「はあ？中也今気付いたの？何？蛞蝓なの？」



「あぁ！？死なすぞ陰湿野郎！！」



敵を目の前にしても尚、繰り広げられた二人の喧嘩。しかし
少女は警戒を解かない。太宰と中原の云い合いが中々止まない為、逃げて仕舞おうと思った。




「…エリオット」




少女がぽつりと呟く。



名乗られたら、名乗り返すのが礼儀。礼儀を叩き込まれた
『ブラッドベリ』ならば、必ず名を答えるだろうと踏んだ太宰。だから先刻、名を名乗ったのだ。




「…エルちゃんね」



太宰は『エリオット』を省略した愛称で『少女』の名を呼んだ。



「その呼び方、やめて」




そうして再度フードを被っては、走り出した。今追わずとも、
この先…近い内に必ず対峙する。この街に来ているのは彼女だけでは無いのだから。




「おい太宰、逃がして善かったのかよ」



「逃がす？真逆。そんな訳が無いだろう」



口角の上がった太宰の横顔。光の映らないその瞳。それもそうか。あの太宰がレイに関係する『ブラッドベリ』を逃す筈も無い。



「まあでも、かなりハードだなあ。『隼』と、米国の異能組織。よくも重なってくれたよ。…それに、他に未だ何か…来そうな予感もするしね」



『隼』の彼は精神が脆い。掌で転がせる。先に片付けるのは米国の異能組織の方だ。予測通り彼処から仕掛けて来た。太宰の云う『牽制』が効き、上手く事を運んでくれて居る。


_

salvage７１→←salvage６９

ポートマフィア『隷属部隊』隷属者No.01

レイ・ブラッドベリ：音楽界の名家『ブラッドベリ』出身。血が足りて居れば下手に暴れる事は無い為、適度な血の供給を推奨する。＿＿＿＿隷属者No.01『所有者』＿＿＿＿太宰治。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す