死ぬより先に、どうか殺して呉れ。双【文豪ストレイドッグス】

第五十一舞『玉砕せし不屈』 ページ1

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『横浜連続爆破事件』。





其れは、横浜の街を壊滅に追い込んだ事件。




起爆装置の内部に、人体に激痛を与える毒物が仕込まれて居た。






一人の青年の異能により、其れは鎮圧された。





青年を『救世主』等と、報道番組は豪語した。






しかし…今その青年は、事件から三ヶ月もの間、目を覚まさないで居る。









＿＿＿＿武装探偵社、医務室。







医務室の中で、国木田が椅子に腰掛けて手帳を読んで居た。




すると…医務室の扉が開き、黒髪蓬髪で長身の男が ひょいっと顔を出した。





扉の間から、笑顔で国木田にひらひらと手を振る。







「お早う国木田君。代わるよ」






青年…アイザックが、何時目を覚ましても良いよう、出来るだけ付き添いを交代でして居るのだ。






「ここ何ヶ月間、やけに出勤が早いと思えば…アイザックの看病の為に早く来ているのか」





国木田が眼鏡を押し上げた。






「うふふ。だとしたら、笑うかい？」






「笑わん。お前のお陰で太宰が更生した、とアイザックを褒めるべきだな」






国木田が席を立ち、やれやれと肩を落とした。







「長い夢を見ている様だ。今日初めて、苦しそうに魘されて居た」






通り過がりに太宰に云うと、太宰はアイザックの方を見た。






「そうなのかい。それで？」






「その後は特には無いが…余りにも苦しそうだったからな。俺の手帳に書いてある項目を読み聞かせた」






国木田は至って真面目にそう答えたが、太宰は込み上げて来る笑いを堪えていた。







「アイザ君、それで魘されてたんじゃない？」





「そんな理由があるか！」







太宰が国木田をおちょくると、国木田は太宰に掴み掛かって揺らした。






「あ、ほら。予定が乱れちゃうよ？先ずは朝の洗剤ジュースで乾杯だろう！」






飲まん！と、云い捨てて扉を乱暴に閉めて出て行った。







「連れないねぇ。君もそう思うでしょ？」






太宰の言葉に、返答は無かった。





太宰は微笑し、溜め息を吐いた。







「一体、どんな長い夢を見ているのだろうね」






アイザックの横顔を見て居ると、二度と目を覚まさないのかも知れないと、不安になった。









「…う」






アイザックが、ひとつ声を発した。



苦しそうな横顔だった。






「あぁもう、ほらほら。大丈夫だよ」






太宰がアイザックの頭に手を置くと、




青年の顔は、穏やかになった。






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第五十二舞『甘露なる藹々』→

要注意異能力者＿＿＿＿内務省異能特務課より。

アイザック・バシェヴィス・シンガー：身長 169cm、体重 53kg。横浜のゴロツキ。非好戦的だが、気が短い。民間人に危害を加えた事例は無いが、我々は監視を続ける必要がある。

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