銀狼【銀魂】21

第九百三十八訓 弱さを自覚してそれを乗り越えた時人は成長できる ページ7

神威「そいつは呪いの博打だ。負けた奴は必ず不幸になるのさ。俺も負けたんだから間違いない」

A「…くだらねー。どうせ負けると決まってる博打なんて、ただの八百長じゃねーか」


再び溜息を吐いて、神威のいる檻に足を向けた。


A「お礼参りに来たんだけど…そのザマじゃあ思う存分にできないね」

神威「そう？今の俺は拘束されて動けない。俺を殺すのに、これほどの好条件はないと思うけど」

A「誰がお前の命なんざ欲しがるかよ。大体お礼参りっつったって、別にあんたの命まで奪ろうたァ思ってないから安心しな」

神威「公開処刑されるよりかは、Aの手にかかって殺される方がまだマシかなぁ」


ケラケラ笑う神威。

人生のタイムリミットがあるっつー絶体絶命の状況に、ここまで呑気でいられるとは。
あたしは呆れて、思わず笑みをこぼした。


A「こんな時でも笑えるんだね」

神威「Aだって同じだろ？」

A「あんたと一緒にすんな戦闘バカ」

神威「同じだよ。夜兎(オレ)と銀狼(おまえ)は血に飢えた同族(けもの)だ」

A「同族(けもの)ねェ…」


神威の言葉を反芻したあたしは、彼から目を逸らし宙を仰いだ。


なるほどね、神威の言うことは案外的を射ているかもしれない。

あたしは脈々と続く戦闘一族の末裔だ。

戦いを楽しいと思ったことはあるし、全てを破壊したくなる衝動に駆られる時だってある。
そういう面でいうと、神威の言うことはあながち間違ってないかもしれない。


腐っても、銀狼。その血の自覚が、あたしを深いワインレッドの闇に陥れた。

あの感覚はいくら掻き消そうとしても消えない。扉をほんの少し開いた一瞬で、心の奥底に根を張った。

闇の中に身を任せると、身体中を駆け抜けたのは恐怖ではなく快感。人を斬る度に、壊す度に、刹那の快感が駆け巡る。


それが、今の世界に生きる自分を苦しめた。

あたしは一体何をやっているんだ。どうして壊すことが楽しいと、殺すことが嬉しいと感じてしまうのだ。

こんな自分、もう嫌だ。今すぐ消えて無くなりたい。何度もそう願った。

だけど。


A「…確かにそうかもしれないね。私は所詮獣だ。頭では色々考えても、結局は何かを壊すことにこの上ない悦を感じる。隠し通そうとしたところで無駄かもね」

神威「………」

A「でも、そんな自分も悪くない。全てを引っくるめて、自分なんだ…だろ？神威」


あたしは、逃げちゃいけない。

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