□3日目 ページ37
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『あ』
「お」
気がついた時には目があっていた。
何秒経ったか。
多分1秒も経たなかった。
「腹黒王子！？」
「うそ！やば！？」
生の王子は迫力がさぞかしありがたいことなのだろう。
彼女だから慣れてしまっている自分はもしかしたら贅沢なのかもしれない。
『爆豪くん』
偶然、彼と鉢合わせた。
百合が少々反応を示す。
「なんでテメーが」
『偶然だね…』
正直会いたくなかった。
今自分が笑えているのか分からない。
まさか展望台で鉢合わせるとは……
ゲート前で出くわしてしまった。
「Aせっかくだから王子と行って来なよ」
コソッと森ちゃんが言ってくる。
『いやっ、でも…』
「A」
反射的に肩を強ばらせる。
百合がなぜ話しかけてきたのか。
「爆豪くんと登って来なよ」
『………………』
なんで？
なんで、そんなこと言うの。
彼女の変貌ぶりに思わず戸惑う。
どうしたの、と問いかけてみたい。
「オイ」
爆豪が首の裏に手を当てながら聞いてくる。
「行くのかよ、行かねぇのかよ」
『………………行く…ね』
Aは爆豪の後ろ姿を追って階段を登り始めた。
「なんかあるなら言えや」
展望台の最上階に着くなり言われる。
「なんかあるなら言えや、ウダウダしやがって気持ち悪りぃ」
『あのね、爆豪くん』
踏みとどまる。
考えた。
百合のことを相談していいのか。
『あのね、爆豪くん、……もし、凄く大切なものが２つあってどっちかを絶対に選ばないとだったらどうする？』
バレない程度に聞いてみた。
流石に察されないと思う。
「んなもんどっちも取るだろフツー」
『ええ……』
思わず間抜けな声が出た。
話聞いてた？と聴きたくなる。
「取ろうとしないでどーすんだよ」
一択だろうが、好きなモン信じねーでどうすんだよ」
_____ああ。なんでだろう。
なんでこの人の発する一言二言で心がこんなにも軽くなるんだろう。
…………そうだよね。
そうしないと。
『爆豪くん』
「あ？」
『ありがとう』
「何がだよ」
いつもありがとう、爆豪くん。
大切なもの教えてくれて。
覚悟を教えてくれて。
好きを教えてくれて。
そのままエレベーターで下まで降りた。
「A！」
『…どうしたの？』
慌てて五十嵐ちゃんが走って来る。
「百合見なかった！？」
『え？』
______百合？
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作者名：おにぎり。
| 作成日時：2021年10月23日 11時
