4話 ページ5
「……僕には不可能です」
僕は、ふるふると首を横に振った。
鋭い視線を感じて振り返ると、男性が怪しむかのような目線を向けていた。
「不可能ねぇ……」
男性は、小さく呟いた。
考え込んだのか、目を瞑り、黙ってしまった。
僕は水をささないように、男性が口を開くのを待っていた。
……いや、待っていたのではなく、何を話せば良いのか分からなかったのだ。
「……けどよぉ」
ようやく男性は口を開いた。不満そうに口を尖らせると、僕を上から睨みつけた。
「……出られないってことはない筈だ」
男性は、しらばっくれるのは止せ、とでも言いたげに目を細めた。
僕は瞬きをすると、男性に目を向けた。
「いえ、ですから……それは出来ません」
「はぁ？だってお前は、門から入って来てただろ」
「何故それを、貴方が知っているのですか」
僕は、淡々と冷静に尋ねた。怪しい。
どうして、この男性が知っているのだろう。
男性は、先程までの勢いを忘れたかのように、視線を反対側へと逸らした。
「あー……それはな」
男性は、気まずいのか口をモゴモゴとさせた。
そんな男性を尻目に、僕は考え続けた。
否、考えるまでもなかった。
男性の発言には既に違和感があったのだから。
男性は、嘘をつくのが苦手なのかもしれない。
「見ていたのですね」
僕が遮るように言えば、男性は息を呑むと俯いた。
自身への憤りと、悔しさを代弁するかのように、男性の拳は握り締められていた。
「……そうだ」
男性は、どこか悲しげな瞳で呟いた。
「オレは……お前が一期によって追い詰められるまで、何も出来なかった」
男性はゆっくりと、飲み込んだ物を吐き出すかのように言葉を並べた。
「……A」
僕が呟くと、男性はびっくりして顔を上げた。
「A？……まさか、真名か！？」
さっきまでの落ち込みようは何処へやら。
男性は酷く慌てた。
僕の肩を強く揺すっている。
僕は、男性の態度がころころ変わるのが面白くて、笑みを溢した。
「お、おい！答えろ」
「大丈夫ですよ、真名ではありません」
僕がそう答えると、男性は安堵したのか僕の肩から手を離した。
落ち込んだ男性を慰めたくて、思わずAと呟いてしまったけれど。慰められただろうか。
「……オレは和泉守兼定。かっこよくて強い！最近流行りの刀なんだぜ！すげぇだろ」
男性の長い黒髪が風で靡いていた。
誇らしげに胸を張った男性を見て、僕は目を細めた。
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作者名：うたた寝する三毛猫 | 作成日時：2022年3月9日 11時
