15話 ページ16
冷静になっていた一期は、再び混乱へと突き落とされた。
考え込んでしまったのか、一期は俯いた。
暫くして何も分からなかったのか、縋るような瞳を三日月に向けた。
「それはどういう事ですか」
三日月が口を開こうとしたが、それは遮られた。
がさがさ、と音を立てるすぐ側のしげみによって。
三日月と一期は、目を見合わせた。
そこからの動きは、早かった。
瞬く間に、彼らはしげみとの距離を縮めたのだ。何の音も立てずに。
「おや、おぬしであったか」
三日月と、一期の瞳には一人の少年が映っていた。
水色の瞳と、桃色の髪をもつ少年だった。
「……秋田」
一期の口から、意図せずに彼の名が溢れた。
秋田の瞳が、大きく見開かれた。
「いち兄！」
秋田は、服に葉がつくのを構わずに茂みから飛び出した。
一期は、そのあまりの速さに固まっていた。
すると、一期の腰辺りに何かがぶつかってきた。
あまりの勢いの良さに、一期は後ろへと飛ばされそうになった。
「うぅっ、良かったです……！」
飛びついてきた秋田は、一期の腰辺りで泣いていた。
一期は、秋田の頭に手を伸ばそうとした。しかし、すぐに引っ込めてしまった。
秋田の涙は、一期の服を湿らせていった。
秋田が泣き止む様子は、なかった。
出来るのならば、一期はすぐにでも秋田を慰めたかった。けれど、それは出来なかった。
彼は、思い出してしまったのだ。
彼自身ですら知らない一期一振を。
否、その彼は一期一振ではなかったのである。
一期の身体と声だけを借りた、全く別の存在であった。
先程から、一期の頭の中では、ある記憶が繰り返し流れ続けていた。
「貴方が新しい審神者ですかな」
「ーーお覚悟っ！」
何の躊躇いもなく、記憶の中の一期は刀を抜いた。
必死に逃げ惑う、小さな背中を追いかけながら。
どこか他人を見ているような気持ちで、一期はその光景を眺めていた。
ふと、一期は記憶の中にいる筈の自分と目が合った。
記憶の中の一期は、何も言わずに口角を上げた。気味の悪い笑みだった。
「……私と離れようとしたって、無駄ですぞ」
「まさか、貴方が」
ふと、一期の脳に三日月が発した言葉がよぎった。
「私を操っていたのですか」
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作者名：うたた寝する三毛猫 | 作成日時：2022年3月9日 11時
