13話 ページ14
「この本丸に、新たな審神者が来たのだ」
三日月の言葉に、一期は目を見開いた。
「……ふむ、何も知らぬようだな」
三日月は、納得したように深く頷き、一期を見つめた。
一期は、呆然とその場に立ち尽くしていた。
「おぬしは一度だけ、その審神者と会っておるぞ」
「……私がですか？」
一期は、訝しげに三日月へと問いかけた。
どんなに、記憶という記憶を引っ張り出そうとも、そんな記憶は見つからなかったからだ。
それに、全く記憶がないどころか、審神者の姿すらも、一切思い浮かばなかったのだ。
「やはりか」
瞳の中では、三日月が輝いていた。
三日月は何かを見透かすかのように、目を細めると、ゆったりとした口調でそう呟いた。
「なぁ、一期よ」
三日月は、訳が分からないのか視線を泳がす一期に呼びかけた。
一期の肩が跳ねた。
一期は、三日月の顔色をうかがうかのように、三日月を見つめた。
「……俺と散歩をしてくれないか」
三日月はやんわりと微笑むと、一期の前に手を差し出した。
「……散歩、ですか？」
一期は差し出された手を見つめると、不思議そうに首を傾げた。
三日月は、静かに微笑んだ。
「……どうか何も聞かずに、付き合ってはくれないか」
三日月は、凛とした声で小さくそう返した。
一期には、三日月が恥じらっているように見えた。
「……わかりました」
一期は、三日月の手を取った。
その途端、一期の瞳からは涙が溢れてきた。
一期が何故、と疑問を浮かべる間も、涙は地面を濡らしていった。
三日月は困ったように微笑むと、袖で一期の頬を流れる涙を拭った。
子供のように嗚咽を上げる一期に、三日月はそっと距離を縮めた。
そうして、しゃがんで泣いている一期の頭に手を伸ばした。
一期は申し訳なさそうに、止まらない涙を流しながら三日月を見た。
「気にするな、蓋が外れたのだろう？」
三日月は嬉しそうに笑みを浮かべると、一期の髪を慰めるように撫でたのだった。
三日月は、一期には聞こえないようにと袖で口を隠すと、小さく呟いた。
「……童の話は、また後で話すとするか」
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作者名：うたた寝する三毛猫 | 作成日時：2022年3月9日 11時
