33…T ページ33
「ねぇ、パパ。お願いがあってね、今日はわたしのお土産いらないから、早く帰って来て？」
「え、いらないの？」
「うん。」
「そっか。今日も19時過ぎちゃうけど、急いで帰ってくるね。」
「うん！」
朝のあれこれが終わりAちゃんの甘えんぼタイムが始まると、膝に乗ってきたAちゃんに意外なお願いをされた。
いつもお土産のケーキを楽しみにしているAちゃんが、今日はいらないと言った。
初めて言われたから正直戸惑ったけれど、仕事が忙しく昨日今日と30分延長になったせいで寂しくなっちゃったのかなと思い、Aちゃんをぎゅーっと抱きしめた。
「お仕事頑張って早く終わらせて、すぐAちゃんのこと迎えに行くからねっ。」
「約束だよ？」
「うん、約束ー。」
今日はバレンタインだからこの業界は特別忙しく、帰りも少し遅くなってしまう。
その分Aちゃんには美味しいチョコレートのスイーツを持ち帰ろうと思っていたけれど、今のAちゃんはスイーツより早く帰った方が喜んでくれそうだなと思い、断念した。
「じゃあ、そろそろ行ってくるね。」
Aちゃんを抱えたまま立ち上がって一緒に玄関まで連れて行って、そこでもう一度ハグをした。
「いってらっしゃい。」
「行ってくるねー。」
「パパっ。」
「なあに？」
ちゅ……
「………え。」
「きゃはっ。いってらっしゃいっ！」
「い、いってきます……？」
玄関の扉を閉めるとそのまま扉に凭れ、暫く放心状態になってしまった。
え……
もしかして今、Aちゃんにキスされた？
なんで……？
した後、きゃっきゃ笑ってたよね。
「やばぁ。めっちゃ嬉しいかもぉ……。」
Aちゃんのことを娘として可愛いと思う瞬間はたくさんあって、そんな時にキスしたくなっちゃう時もある。
特にふたり暮らしになってからは、寂しがったり寝かしつけてる時なんかに愛情表現としておでこやほっぺにキスしてあげたくなっちゃう時もある。
でも女のコでお年頃な年齢でもあるし、なにより血の繋がりのない父親にされるなんて嫌がると思っていたから自制していた。
もちろんAちゃんからされたこともなかったし。
それなのについさっきAちゃんから初めてほっぺにキスをされた。
俺、ちゃんと父親だと認識されてるってことかな？
ちゃんと父親できてるってことかな？
泣きそうになる程、感動してしまった。
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作者名：にかみつば
| 作成日時：2020年10月10日 10時
