狂犬の花嫁【今日から俺は】

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「無理はしなくていいぜ。お前ぇと出掛けるだけでも俺は楽しいからよォ」


少し眉を下げて微笑む相良さんが

すっと手を引こうとする



あ………………待って………………




引き留めるように彼の手を掴んだ

じわりと手から暖かさが上がってくる

相良さんが教えてくれた




幸せの温度




そういえば彼の手に触れたときもこの様な暖かさが流れたかもしれない





「無理しなくて良いって言ったろうが…………」

頬に触れた相良さんの指が 私が涙したことを教えてくれた


「お前ぇが嫌なことはしたくねえんだよ…………」

握った指をほどこうとする手



「嫌！離したくないです」

遠ざかろうとする温度を離したくなくて 胸元に掻き抱くように抱きしめた


「お、落ち着け…………わかったから…………」


私の手を包み込み 指先を絡める相良さん


「これでいいだろ」


ぶっきらぼうにそう言った相良さんは

何故か頬が赤かった









相良さんに手を引かれ繁華街から少し離れた路地に入る

ドアを開けるために離れていった手に胸が苦しくなったのは一瞬で





「わぁ…………すごい…………」




お店の様子に思わず声を上げた

少し薄暗い証明

木製を基調にしたシンプルな内装

そして、なにより…………その中で談笑しながら食事をしている大勢の方々



この中で お食事を…………？



今までは自宅でひとりで食事をとっていた

仕事の際はお弁当

外で食事をとるにしても 粛々とした会食かパーティーの席で




この様な 人々が気安く集まるところなど

初めて…………




いつもより心音が速く感じる

少し目を細めた相良さんが



「気に入ったみてえだな…………」

と声をかけてくださった


トクトクと高鳴る胸の音とふわふわとした感覚

この気持ちが「気に入る」ということ…………

ただただ頷くだけの私の頬に 相良さんの繊細な手が延びる




「よろこんでるお前ぇもかわいいな…………」




そっと細められる瞳


「Aは 笑った顔もかわいいんだな…………」


いつだか仰ってくださった言葉がシンクロした







急に沸き起こる


きゅうっと胸の奥が痺れる感覚

甘い棘で柔らかいところを引っ掻かれるような感覚



幸せとも気に入るともまた違う



不思議な感覚




これも何かの感情なのだろうか

相良さんなら教えてくださるだろうか

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