藍沢先生の彼女は強くて弱くて脆い。

あれから… ページ23

ノーサイド
藍沢耕作という男が、ある女性に惹かれ、恋をした。









時間という縛りがあるのも気にせず、









彼は彼女と共に生きることを決意した。









そしてあれからは…









彼は今も抜けることのできないブラックホールの中にいた。









人はいつかﾀﾋぬ。









そんな当たり前のことを、いつしか思い出さないようにしていたのかもしれない。









彼女が最期を迎えたのは、









愛する彼の家で、仲間と呼べる一生のパートナーたちと共に過ごしたその日の夜だった。









プロポーズから約一年半の歳月が経っていた。









最期のその時、彼女の本当の心は何を語ろうとしていたのか。









解る術はなかった。









プロポーズの日。



「耕作、あのね…








もう、治療は、







受けません。








あの家は私たちの家だから、









最期はあそこで生涯を閉じたいです。








わがままでごめんね。






それと…」









ー翌年ー
A、という一人の愛された人がこの世を去って早一年。









今日は一周忌。









どんよりとした空に氷のように冷たい雨。









それは未だ彼女の存在というブラックホールから抜け出せない彼らを表しているようだった。









「…A。









前からあんたの考えがよくわからない時があった。









もちろん…最期も。









ねぇ、









どうして、









シャイボーイの…藍沢の……









プロポーズを断ったのよ…。









ﾀﾋんだら何もかも、









分からないじゃないｯｯｯ！」









美しいその墓の前で緋山は泣き崩れた。









白石は何も言わず、









藤川はただ、下を向き、その目は空を見ていた。









冴島は、我が子を抱き寄せ静かに頬を濡らした。









誰もが後悔の淵に立っていた。






藍沢サイド
俺らの時計は彼女がﾀﾋんでもなお止まることはなく今日も動く。









これが俺の仕事で良かったと思っている。

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