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自分で自分のこと褒めろ！
なんて言って、椅子ごとぐるりと体ごとわたしを向き直させる。
言葉には出さずに目だけで“早く”と促してくる流星。
なんの儀式なのか分からないけど、付き合っておこうかな。
わたしはここで、自分に自信を、取り戻さねばならない。
そう思ったから。
「んーとじゃあ、…我慢強くてえらい！」
「ほー、そんでそんで？」
わたしが座るいすの肘掛けに両手をついて、
満足そうにする流星の笑顔がすぐそこにある。
「でー…手に職あってすごい！」
「ふふっ。ええぞー」
「毎日がんばってる！」
「がんばってるー！」
「めっちゃくちゃがんばってる！」
めっちゃくちゃ、のところで
両手で握りこぶしを作って力を込めた。
同時にまぶたもぎゅっと閉じて。
もう一度目を開けた時にはもう、
前髪ごしに、おでこに柔らかい感触が触れていた。
流星の甘いかんばせが、文字通り目と鼻の先にある。
「…ふふ。
頑張り屋さんな子は、大好きやで。」
流星が、あまりに飄々としてるから
何が起こったのか、確認するのを忘れていた。
「……なんやねん。
もうちょっとええ顔せぇや(笑)」
「え、あぁ…」
「まぁええや。
じゃましたなー。おれもう行くわあ。」
「あ、うん」
「めだかちゃんの顔も見れたし」
「うん。」
「遅ならんうちに帰れよー？」
「うん。」
ばたん。
音を立てて閉まるドア。
その背中をも来るまでもなく、彼はわたしの日常からいなくなった。出ていった。
・
「ふあぁー…よう寝た…
あれ、ゆりちゃん、まだおったん？」
仮眠から戻ってきた淳太さん。
「はい」
「まだ帰れへんの？」
「あ…もう、上がります」
なんでか、淳太さんの顔を見ることができず
下を向いたまま事務所を出てきてしまった。
変に思われただろうか。
・
家路につきながら、おでこに指で触れる。
チリリと熱い感触を、なだめるように。
＿＿“頑張り屋さんな子は、だいすきやで”
触れた流星の唇の感触を、いつまでも
いつまでも反芻していた。
・
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作者名：Lucio | 作成日時：2019年6月9日 14時
