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っ、・・・
ドクンっと心臓が大きく脈打つ。
鼓動が忙しなく動いて、息が苦しい程にどうしようもなく胸は熱いのに。
細かく肩が震えて、握り込んだ己の指先は驚くほどに冷えている。
ジャズ特有のスウィングのリズムが跳ねるように踊り、北山の指先から放たれた音たちは見えない魔力を宿しているようにさえ感じて。
その音のひとつひとつが、笑いながら俺を雁字搦めに捕らえてくるようだった。
着ているモーニングも、毛先を遊ばせた銀の髪も、何もかもが先程までと変わらない。
変わらない、はずなのに。
それなのにピアノに向き合った瞬間、北山を取り巻くものが一変した。
これが本当にずっとずっと自分の隣にいたはずの、俺のよく知る北山なのだろうか。
ならば、この違和感はっ・・・
見慣れた強い漢の瞳は、今はすっかり鳴りを潜めている。
代わりにそこにあるのは。
嫣然たる瞳で指先を踊らせて、漆黒の皇帝を飼い慣らす目の前の北山は、まるで妖しく艶やかに咲く
あれは。
あれは。
本当に、北山か?
俺の知っている──────・・・北山か?
再びドクンッと心臓が跳ねる。
何が何だかわからない。
けれど、身体が震えるのに熱くなる胸に宿るこれは。
何かに──・・・よく似ているような気がした。
ひゅ、と喉が鳴った。
そして、先程よりも更に鮮明になる、不快感。
言葉にならない、何か黒い塊を呑み込んだような。
息がしづらい。
───・・・いやだ。
そう思った、その時。
恍惚としていたはずの瞳が、俺を確かに捉えて。
視線が絡む。
見つめていれば、その瞳から妖しさが薄まって穏やかに柔らかに光彩を宿す。
それと同時に。
音が、変わる────────・・・。
甘さはそのままに、丸く優しく。
その、イントロは。
耳に馴染んだメロディにゆっくりと息を吐いて、俺は初めて自分が息を止めていたことに気が付いた。
柔らかく包み込むように降り注ぐ聞き慣れた旋律。
作り手自らが奏でる切ないイントロ。
俺を見つめたままのアーモンドの形をした瞳が、いつもの調子でいたずらっぽく笑う。
それは、北山で。
間違いなく、俺の北山で。
その事に、俺は心の底から安堵したんだ。
目の前の・・・俺の相棒だと胸を張って言える北山に。
北山の笑みに緩く笑んで返して、俺はゆっくりと足を動かし北山が座る椅子に背中を合わせるように座った。
背中の温度が、冷えた指先を温めてくれるような気がした。
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流華(プロフ) - さゆさん» さゆさん、こんにちは。コメントありがとうございます。表現と描写は、本当に気を遣っている部分なので、そこを誉めてくださると嬉しくて更に頑張ろうと思えます。活力をくださってありがとうございます。今後も頑張りますので、移行後もよろしくお願い致します。 (2021年9月17日 18時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - ユキさん» あははー。良いところで狙って切る癖は、今も健在です(笑)でも、ホントにこのお話はノリとか勢いで書き始めたところがあるので、そんな感じに軽いです(笑)上質と仰っていただけること、本当に嬉しいです♪♪今後もお付き合いくださいませー♪ (2021年9月17日 17時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
さゆ(プロフ) - 言葉の遣い方がとても綺麗で、文字数が多いのに一言一句しっかりと目で追ってしまいます!本当に素敵です!移行先でも楽しみにしています! (2021年9月12日 14時) (レス) id: 4e568979a2 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - うわ!そこで移行ですか!!!笑 めっちゃ気になりますーー!上質なお話を読んでいたのに「面白いそー♪」って流華さんのノリの温度差に笑ってしまいました笑 続き楽しみにお待ちしてます☆ (2021年9月12日 13時) (レス) id: d4b3736ff0 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - sioriさん» sioriさーん♪♪にゃはは〜だって、狙って切ってますもん(笑)読み返してくれたんですか!?嬉しーです♪♪今回は伏線無しだから、謎とかも無いですけど楽しんでくれたら十分です♪sioriさんが読んでると気合いも入るので!!! (2021年9月12日 12時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:流華 | 作成日時:2021年8月11日 13時