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けれど俺は、それを傷ごと全部見なかったことにして、心の底に封じ込めた。
蓋をして、沈めて、そうしなければもう隣に立つことも相棒として背中を預けるも、きっと出来なくなっていた。
それほどに。
俺は。
握り締めた拳に再度力が入る。
更に爪が食い込む感覚がして、その手が少しだけ震えていた。
まるで他人事みたいにその震える拳を見ていたら、ふわりとそこに
っ、
ここは北山の部屋で、二人しかいないのだから、その手は当然北山の手で。
けれど俺は、そちらに視線を向ける事なく俯いたまま。
「ふじがや･･･。」
呼び掛けられる声は何故だかひどく優しくて、少しだけ鼻の奥がツンとしてくる。
北山は、握り締めた拳とは反対の手に握られたままだった桜色に染まったグラスを俺の手から抜き取ってローテーブルに置いた。
「そんな力入れたら、掌傷付くぞ。」
そう言って、俺が握り締めた拳を緩やかに開いていく。
気が付けば、北山はソファに座る俺のすぐ傍にしゃがみ込んでいた。
下から覗き込むみたいに視線を合わせられたと思ったら、その輪郭が滲んだ。
ああ、マズい･･･。
思った時には既に遅く、濡れた感触が頬を伝い落ちていった。
見られたくなくて顔を背けようとしたけれど、それよりも早く北山の手が頬に触れて。
「ごめん、な。」
言葉と共に、柔らかに親指で涙を拭われた。
頬に触れる温かい掌。
その温度があまりにも優しいから。
遠く、あの日に沈めたはずの想いが甦る。
「やめろっ、見んなっ、、っ･･･!？」
っ！？
思わず北山の手を振り払って、身体ごと北山に背を向けようとした俺の肩を北山が掴んで。
正面から、頭を抱き込まれた。
北山の胸に俺の耳が当たるような体勢で、強く抱き寄せられて。
「これなら、見えねぇだろ。」
ドクンッ─────────･･･
なんて、近い距離で。
ふざけんな。
やることが昭和なんだよ、オマエは。
なんだよ、その使い古された台詞はっ。
心では目一杯悪態をつくのに、身体はどうしたって動かない。
柔らかに香るのは、北山の香水かそれとも柔軟剤だろうか。
「ごめんな、ふじがや･･････。」
再び零される謝罪に、心があの日に戻される。
ある程度の年齢まで来れば、きっと誰もが過去の感傷を封じ込めた箱を一つは持っているものだ。
俺にとって、それは。
北山だった─────────。
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流華(プロフ) - さゆさん» さゆさん、こんにちは。コメントありがとうございます。表現と描写は、本当に気を遣っている部分なので、そこを誉めてくださると嬉しくて更に頑張ろうと思えます。活力をくださってありがとうございます。今後も頑張りますので、移行後もよろしくお願い致します。 (2021年9月17日 18時) (
レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - ユキさん» あははー。良いところで狙って切る癖は、今も健在です(笑)でも、ホントにこのお話はノリとか勢いで書き始めたところがあるので、そんな感じに軽いです(笑)上質と仰っていただけること、本当に嬉しいです♪♪今後もお付き合いくださいませー♪ (2021年9月17日 17時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
さゆ(プロフ) - 言葉の遣い方がとても綺麗で、文字数が多いのに一言一句しっかりと目で追ってしまいます！本当に素敵です！移行先でも楽しみにしています！ (2021年9月12日 14時) (レス) id: 4e568979a2 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - うわ！そこで移行ですか！！！笑 めっちゃ気になりますーー！上質なお話を読んでいたのに「面白いそー♪」って流華さんのノリの温度差に笑ってしまいました笑 続き楽しみにお待ちしてます☆ (2021年9月12日 13時) (レス) id: d4b3736ff0 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - sioriさん» sioriさーん♪♪にゃはは〜だって、狙って切ってますもん(笑)読み返してくれたんですか!？嬉しーです♪♪今回は伏線無しだから、謎とかも無いですけど楽しんでくれたら十分です♪sioriさんが読んでると気合いも入るので!!! (2021年9月12日 12時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：流華
| 作成日時：2021年8月11日 13時
