PAST IVー8 ページ9
通し稽古が始まると、その空間はピリピリしていて私はいつも緊張が絶えなかった。
この先も一緒に踊りたくて必死で、両親に頑張っているところを見てもらいたくて。
とにかく、出来ることは限界までやったつもりだった。
「あなた台本読んだ?」
「・・・はい」
先生がそう口にした瞬間、その場が凍りついたのがわかった。
「読みました」と口にすると先生は「まるで感情が篭ってない」と顔を歪ませ「そんなんじゃ誰も綺麗だと思ってくれないわよ」と私に言い放った。
「台本、読み込んできます・・・」
震える声でかろうじてそう言うと、向こうにいる紫耀が心配そうに目を向けてきたのがわかったけど正直それどころではなかった。
家に帰ると台本を開き、劇の題材となった原作をネットで調べ始めた。
ジーナはどういう女の子なのだろう?と。
そう言われてしまったらとことん演じきってやろうと、負けず嫌いの血が騒いだ。
ジーナはヨーロッパにある小さな国のお姫様という設定。
親には内緒でバレエをしていて、昼どきの読書の時間に自室に籠もっていると見せかけ窓から脱出し下町に通う。
下町に住む幼馴染のエルという男の子の助けのもと、下町の女の子たちに混じってバレエをしている。
ある日、エルと女の子の友達が見守っている中気持ちよさそうに踊るジーナの姿を隣の国の王子様が見つけ恋に落ちる話だ。
親に内緒でバレエをする、ということは親はバレエに反対しているのだろう。
読書の時間があるのだからきっと彼女は勉強をするように強いられている。
だけど、窓から脱出を試みるほどバレエがしたいのだ。
そうやって一つ一つ、ジーナの気持ちになって台本を読み解いた。
来る日も来る日も、台本が真っ黒になるほど読み込んではジーナになって踊った。
「・・・っ、」
次の稽古の時、私のシーンが終わると先生は黙り込んで何か考え込むような表情をした。
私の演技を見た周りの反応が、この前と違うのがわかった。
紫耀をちらっと見ると驚いたように私を見ていた。
先生は何も言わずにただ頷くと次のシーンに行くように促す。
私のシーンではないから端っこに寄ると、モエが駆け寄ってきて「Aちゃんどうしたの!?」と興奮気味に問いかけてきた。
1752人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:愛美 | 作成日時:2019年3月10日 20時