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PAST VIー1 ページ43

目が覚めると眩しいほどの光が目に入り、咄嗟に顔を背けた。

病院独特の匂いが鼻につき顔を歪める。

ついこの間解放されたばかりなのに、逆戻り。






神「起きた?」

「・・・なんでいるの」



この前と同じ光景。
病室にじんがいる。



自分の手を見つめると、包帯で巻かれていてあれが現実だと物語る。






「・・・、」





踊れないわたしは、もう必要とされないらしい。

一番大事な人に、

一番大事なバレエを、

同時に失った。




わたしが大事に育てたそれはぐちゃぐちゃになったんだ。




残された薄暗い部屋の中で、私は全てを壊した。

宝物であるはずのトロフィーや賞状の額を壁に投げつけて、レオタードは力一杯破った。

出来なくなるなら、原型が分からなくなるほどめちゃくちゃにしたかった。




絶望が私の中に落ちて、私を真っ黒に染める。
こんなの、望んでない。





小さい頃、初めてバレエに出会った時の写真。
それすらなかったことにしようとして、同じように壁に叩きつけた。








「・・っ!」

神「Aっ」

「来ないで!」



じんに背を向けて来ないように言うけど、彼は私の両手を掴んで「もうやめろよ!」と大声を出した。




焦って、余裕がなくなってるじんを見るのは初めてで。

温厚な彼の怒鳴り声を聞くのも初めてで。

力が抜けて床に座り込んだ。






神「もうやめろよ」

「・・・っ、」




嗚咽を零す私の手を握って、「血出てる」と悲しそうな目をする。
私を見つめる彼の目がまるで可哀想なものを見るようで、涙が次々と溢れる。




「しょう・・・」

神「・・・。」

「・・・どうしよう、、」

神「A」





吐きそうなくらいの恐怖感に思わず手が震える。
血まみれになった手をじんが強く握って、「・・・一回、落ち着こう」と口にした。




「・・・じん」

神「ん?」



ティッシュで私の手を丁寧に拭き、私の涙を拭いてくれる彼は穏やかに返事をする。




「わたし、もう何もない」

神「・・・」

「何も、持ってない」

神「・・・A」

「なくなっちゃった」

神「大丈夫だよ」




じんは私を見つめると、泣きじゃくる私を優しく抱きしめた。



「うっ、・・・じんっ」

神「大丈夫だよ」

「・・・たすけて、」





私が最後にそう零すと、じんは私を更に強く抱きしめた。

PAST VIー2→←◆◇ PAST VI -SAVE ME- ◇◆



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設定タグ:愛美 , 森田美勇人 , 7ORDER   
作品ジャンル:恋愛
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作者名:愛美 | 作成日時:2019年3月10日 20時

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