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□PM10:59(2) ページ5

「Aさん専用タクシーでーす。」

下げられたフロントドアガラスから覗いためいちゃんは、緩くセットされた髪を揺らして悪戯っぽく微笑んだ。

「行先は?」
「おまかせで。」
「りょーかい!」

いそいそと助手席に座ると、ドリンクホルダーにホットのほうじ茶ラテがセットされている。

「これ、」
「飲んでいいよ、好きでしょ。」

ずるいって。もっと好きになっちゃうって。確かに好きだとはいったけど何気ない会話だったはずじゃん。覚えててくれたの?

「目ぇうるうるしてる〜かわい〜!」
「だって〜…!」

あーとかうーとか、言葉にならない言葉しか口から出てこなくて。小さく笑っためいちゃんはゆっくり私の髪をすいて、慰めるように額にキスをした。

窓越しに流れていく夜の街。お店の光や街頭に彩られたそれらに人の営みを感じて、1人じゃないんだなぁってなんとなく安心する。

「今日眼鏡なんだね。」
「スタジオ行って打ち合わせして終わりだったからねぇ。眼鏡やだ?」
「ううん、似合ってる。好き。」
「やーったあ。」

めいちゃんの運転してる姿好きなんだよね。手馴れた様子ですいすいハンドルきるのかっこいいなって思う。


「A、見ーすーぎ。」

信号待ちでこちらをチラ見して、上がった口角を更に引き上げた。頬をくすぐる骨ばった手の甲が心地いい。

「俺じゃなくて外見ればいいのに。」
「めいちゃん見てる方がたのしいよ。」
「えー?どこがよ?」
「内緒。」

カーナビから薄ら聞こえてくる音楽に耳を傾ける。優しいバラードの曲調は沈んだ心に染み渡った。
赤から青に変わったビビットな信号機も背景に溶け込んで、ぼんやりと街並みを照らしている。

ハンドルを握った指を飾るシルバーのリング。いつもよりラフな私服と、対向車のフラッシュライトをきらきら反射するピアス。
久々に顔を合わせためいちゃんを見て、今日あった嫌なこと全てが洗い流されていく。


「ごめん。」

急に連絡して。

「謝らないで。やりたくてやってんだから。」

前を向いたままのめいちゃんは、気にするなとでも言いたげに数回頭をぽんぽんと撫でた。それは本心からの行動だということは今までの付き合いで十分に分かっている。


「謝罪よりお礼が聞きたいな、俺は。」
「ありがとう大好き…。」
「フフーン!惚れ直した?」
「とっくに。」

めいちゃんが隣にいてくれるから、悩みなんて全部吹き飛んじゃった。

■lacto ice.→←□PM10:59



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作者名: | 作成日時:2022年8月29日 23時

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