□PM10:59 ページ4
社会人ほんとやってらんない。
その一言に尽きる。
ザアザア降りの雨の中、傘を忘れ、タクシーを拾うことも出来ず、靴擦れのひどいパンプスを引っ掛け早足で帰宅した。
肌に張り付いたシャツが気持ち悪くて一刻も早くシャワーを浴びたいところなんだけど、冷えた体は言うことを聞いてくれなくてその場に力なく座り込む。
「しんどー…。」
納期に余裕があったから後回しにした仕事を今日中に仕上げろとか無茶ぶりでしょ。こっちは考えて1日のスケジュール組んでんだぞ。
めいちゃん打ち合わせいってきまーす!
雨すごいね
大丈夫?
この世のすべてを呪いそうな勢いの私を鎮めたのは、数時間前から未読のままのLINE。相手はもちろんめいちゃんで、『大丈夫?』のその一言だけでなんとか立ち上がる。
情緒がおかしなことになっているのでシャワー中にちょっと泣いた。
「…会いたいな。」
打ち合わせって言ってたけど、何時に終わるんだろう。明日仕事かもしれないのにこんなわがまま言ったら、嫌われちゃうかな。
あいたい
送信取り消ししようとして、やめた。
更に面倒くさい女になっちゃう気がして。
ぼんやりとその場にうずくまる。いつまでそうしていたのか分からない。ほんの一瞬のような気もするし、何十分も同じ体勢でいたような気もする。
定まらない意識をこの部屋に引き戻したのは、聞き慣れたLINEの着信音。
「―…もしもし?」
『もしもし!仕事お疲れ様ー!』
誰からか見ないで取ったけど、どうやらめいちゃんだったらしい。明るい声に眩しさを感じて、思わず目をしょぼしょぼさせる。
『どーしたの。なんかあった?』
なんもないよって言えたらよかった。
「めいちゃーーん…会いたいよー!」
大好きな優しい声を聞いて、情けないくらいボロボロに泣いた。
『泣かないで〜!』
「泣いてない!」
『んふふ、ホントは?』
「もーーベチャベチャに泣いてる。」
自分だって仕事終わりで疲れてるだろうに、わざわざ電話までかけてくれる優しさにまた涙が出てくる。
『A〜画面見てみて。』
最後の余力で耳に当てていたスマホを持ち替えた。
ぱっと白んだ画面に映ったのは、笑顔でビデオカメラに手を振るめいちゃん。私の住むマンション前に止まった愛車も一緒に。
『お迎えきちゃった!』
ゆっくり準備しておいで、と笑いかけられてなんかもう、膝から崩れ落ちた。できる男すぎて。
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作者名:哀 | 作成日時:2022年8月29日 23時