□めいちゃん食堂『オムライス』 ページ12
辛うじて調味料がいくつか置いてある、あまりに凄惨な私の冷蔵庫をみためいちゃんが一言。
「調味料が泣いてるよ。」
「返す言葉もございません…。」
お料理できるていを繕ってなんとか誤魔化すつもりが早々にバレてしまった。宅食サービスやバランス栄養食でやり過ごしてきた私の生活力の無さが。
こんなはずでは…と後悔しても時すでに遅し。
頭を抱えているこの間にもめいちゃんは手際よく調理を進めている。
「慣れてるね。」
「まあ自炊してるからねぇ。」
料理人みたくジャッジャッとフライパンをふるってチキンライスを炒める姿には完敗というほかない。
というかめいちゃんが何かやるたびに思うけど、スペック高すぎじゃない?勝てるとこある?
「なぁによぉ、そんな見て。惚れた?」
ああちゃんと自炊してるんだなって感じる手つきで料理をする横顔がかっこいい。って言ったら、彼は笑うだろうか。
「惚れてる。とっくに。」
それがなんだか無性に悔しくて、そう軽口を返したらめいちゃんは嬉しそうに笑った。
「食べる人はお皿持ってきてくださーい。」
「はーい。」
本日のメニューはオムライスとその片手間で作っていたコンソメスープ。
可愛い雑貨屋さんで買ったホコリをかぶりつつある食器たちも、心なしか喜んでいるように見える。
「やーめっちゃ我ながら上手くできたかも。切り抜いて歌枠の背景素材にしちゃおうかな。」
「例え独特すぎるけど、概ね同意します。」
独特な例えの後、独特ないただきますの音頭でスプーンを握った。
チキンライスを覆うツヤのあるオム部分からは湯気が出ていて、見た目から食欲を誘う。スプーンでひと口すくって口に入れると、甘いバターの風味とケチャップの酸味が具材の味を引き立てて、思わず頬がゆるむくらい文句無しに美味しい。
野菜とベーコンのダシが溶けたスープは箸休めにちょうどいい。オムライスも決して濃い味付けではないけれど、交互に食べるとまあ手が止まらないのなんのって。
「どう?おいし?」
「世界一美味しい!お店出そう!」
「ふは、新宿あたりに出しちゃおっか!」
「客引きは任せて。」
「だめだめ!Aには中でウェイトレスしてもらうんだから。」
「すけべじゃん。」
「なあんで!?」
正面に座り、こちらをじいっと見遣るめいちゃんは何故か私より幸せそうな顔をしていた。
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作者名:哀 | 作成日時:2022年8月29日 23時