Special2-5 ページ29
それだけ言い残すと彼は館の中に走り去ってしまった。相変わらずリザと呼ばれた幼女は泣き叫んでいるし、野菜は俺が抱えたままだ。……この野菜はもう下ろしても良いな。
バタバタと騒がしい足音がして、勢いよく扉が開かれる。色素の薄いブロンドの髪が柔らかく揺れて、その隙間から見えたのは端正な顔立ちと既視感のある瞳だった。
｢……あ｣
｢A、さん｣
俺の色だ。俺の瞳だ。間違いない、物心ついてからずっと見続けてきたものを見間違えるはずがない。
｢ショッピくん、遠くまでご苦労さま｣
態々目を合わせてくるあたり、確信犯だろう。悪戯っぽい笑みの中に隠しきれない高揚が見えるし、余裕そうに見えて耳が赤い。以前と変わらない細くて小さな手を取れば、緩く握り返された。
｢Aさん｣
｢……なぁに、ショッピくん｣
｢帰りましょう、俺達の城に｣
この上なく嬉しそうに笑うAさんを抱き締める。ああ、リザたちが見ていたのは俺の瞳で、Aが異国にいる俺の話をしていたなら連れて帰られると思うかもしれない。
｢好きですAさん、愛してる｣
｢……うん、帰ろうか｣
背中に回された腕はやっぱり細くて、もう二度と目を離したりしないと胸に誓うには十分すぎるほど頼りなかった。
｢……あの男、誰ですか｣
｢この家の持ち主で、元悪徳領主の孤児院責任者。もう私がいなくても彼と他の人達で運営していけるから｣
｢付き合ってないですよね？｣
｢…………ヤキモチ？｣
ヘルメットを被っていない俺の髪でAさんが遊ぶ。どうやら宥められているらしい。
｢ショッピくんがいるから何も無いよ｣
耳元で囁くように笑われるのは非常に心臓に悪い。孤児院と言っていたし、子供と接するうちに口調が変わったのか女性らしさが増している。
｢実はもう出る用意は出来てるの｣
｢……じゃあ攫われてくれますか、魔女さん｣
｢ええ、……愛してるもの｣
end_2
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 11人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
旱(プロフ) - 占いツクールでまさかこんな素敵な作品に出会えるとは思いませんでした…話もちゃんとしていて楽しく読ませていただきました。魅入る者を作った作者さんと同一人物だったとは…素直に高評価です。 (2019年7月24日 12時) (
レス) id: 601b9a7554 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：志摩 | 作成日時：2019年5月26日 19時
