Special1-3 ページ24
｢ゾムさん、やっぱり起きてた｣
掴まれたまま抵抗らしい抵抗をしない女の顔を真正面から見据える。街中で見かけたなら冷やかしのひとつでも言いたくなるような綺麗な顔をしていたが、何よりも目を引いたのはその黄緑色の透き通った瞳だった。この目を俺は知らない、けれど、世界で一番よく見た瞳の色だ。
｢……A｣
｢遠路はるばるご苦労様でした｣
何のしがらみも他意もなく微笑んだのは、紛れもなく俺が求め続けた人だった。
｢昨晩は一層冷え込みそうだったから、荷物ごと引き上げてきたんだ｣
掴んだ腕を離せばいつかの夜のように頬を撫でられる。冷えた指先に一瞬驚くくらいには布団の中で温まっていたらしい。身体を起こして掛け布団を退かしても、温まった部屋のおかげで寒さを感じることは無い。
｢ほんまに、Aやんな｣
｢夜中に呼び出されて寝かしつけてやったことでも話せばいいか？｣
｢Aや……！｣
目の前にあれほど恋焦がれた女性がいる。その身体に手を伸ばして逃がさないように抱き込めば、思っていたよりずっと小柄だった体躯はすっぽり覆われてしまった。幹部として働いていた時には分からなかったが、彼女の身体はカフェで紅茶を嗜んでいたAと変わらず力を込めたら直ぐに折れてしまいそうなほど細く頼りない。
｢ずっと、会いたかってん｣
｢私も待ってた｣
ゆっくりと背中にAの腕が回り、控えめに力が込められる。白い首筋から甘いような懐かしいような、安心する匂いが立ち上る。
｢……噛んでええ？｣
｢何を言い出すんだ、ダメに決まってる｣
｢腹減ってんねん｣
目の前の首筋を噛みたいと思ったのは何も空腹だけのせいではない。あまりにも白くてまるで誰にも踏み荒らされていない新雪のようだから、俺が一番に踏み荒らして俺だけのものにしたかった。
｢朝御飯の用意があるんだが、ゾムさん食べる？｣
｢食べる……けど、もうちょっとこのまま｣
2年前より伸びた髪が柔らかく指に絡む。密着していた身体を離して目を合わせれば、至近距離に耐えられないのか素早く目が逸らされる。何度見ても綺麗な黄緑色をしていて、独占欲が満たされていくのを感じた。
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旱(プロフ) - 占いツクールでまさかこんな素敵な作品に出会えるとは思いませんでした…話もちゃんとしていて楽しく読ませていただきました。魅入る者を作った作者さんと同一人物だったとは…素直に高評価です。 (2019年7月24日 12時) (
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作者名：志摩 | 作成日時：2019年5月26日 19時
