�� ページ27
.
｢その、本当に、すみません。か、可及的速やかに忘れるので、｣
｢わざとじゃないだろうし大丈夫。こんなおばちゃんなんぞより同級生とのラッキーを狙うのはどう？｣
｢それ遠回しに俺に死んでくれって言ってます？｣
未だに5秒とホールドを組んでいられないひとらんくんには、この手のラッキーはまだまだレベルが高すぎるらしい。
申し訳なさそうにしながらも私の軽口に眉尻を下げたひとらんくんがひらひらと手を振ると、不意に彼の指先が目に付いた。
彼の肌は元運動部らしく日に焼けていたりしたが、黄色みの強い手のひらだったはずだ。
それが血こそ出ていないものの赤くなっているように見える。
｢ひとらんくん、指冷やそうか｣
｢え、ちょっと擦ったくらい何ともないです｣
｢ダメだよ。絆創膏も貼ろうね｣
応急セットは受付に置いてあったはずだ。
先日靴擦れのために絆創膏を拝借した時には沢山あったし、在庫だって十分あった。
消毒して絆創膏して冷やしておけば大概の外傷はどうにかなる。
｢ほ、ほほほほほほんとにむりむり、むり、Aさ、Aさん！？力強くないですか！？｣
｢荷物運ぶのに台車とか無かったからね！｣
ひとらんくんの腕を握って受付に入れば、ひとらんくんも諦めたのか椅子に腰掛けて手を差し出してきた。
流石に利き手の指に上手く処置を施す自信はないらしい。
消毒液をかける感覚があまり好きではないのか分かりやすく身体を固まらせていて、絆創膏が巻き終わった時にはほっとした顔をした程だ。
受付の下に置いてある小さな冷蔵庫から保冷剤を取り出してタオルに包んでから彼の手に乗せれば、ひとまず処置は完了でいいだろう。
｢すみません……本当に｣
｢じゃあ今日はフェザーステップ1回分ね｣
｢ﾋﾝ｣
フェザーステップはスローフォックストロットの基本の足型だ。
5歩程度ではあるが単純な動きゆえに粗が目立ちやすいため、ちょっとでも女性から離れようとするとすぐに見栄えが悪くなる。
たった5歩、されど5歩。
ひとらんくんにとっては酷く高い壁となっていた。
｢10分冷やしたらやろうか｣
｢…………覚悟します…………｣
毎度そこまで悲壮な顔をされるとちょっと面白くなるからやめて欲しい、いややめないで欲しい。
ちなみにフェザーステップは3歩目で崩れ落ちて失敗に終わった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 177人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
極p(プロフ) - 主様…めっちゃ好きです()こんな様な話を書きたい…書かせていただいてもよろしいでしょか？ (7月9日 19時) (
レス) @page35 id: f11d12415f (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 更新お待ちしてます…！ (2022年4月8日 19時) (レス) @page35 id: 9c7661f737 (このIDを非表示/違反報告)
トキ(プロフ) - すこ、、、え、rnさんめっちゃ初心じゃん。解釈違いだったのに引きずりこまれる、、、knさんの変貌好きです。髭面サンダルで普段コンビニ行くくせにスイッチ入れば王たる風格とか、イケメン代表のギャップじゃん、、、 (2021年10月29日 23時) (レス) id: 44c169a7de (このIDを非表示/違反報告)
トロピカルじゅーす(プロフ) - おお…めちゃ面白いです！まぁ、コミュ障の私にとっては一生できないと思いますけど…。でも、本格的な社交ダンスやってみたいなぁ… (2021年10月1日 17時) (レス) @page8 id: f1623e6737 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：志摩 | 作成日時：2021年9月30日 21時
