ロンリーオンリーパラダイス

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私の仕事は営業事務だから、営業のサポート的な仕事をすることが多い。

藤ヶ谷くんは営業だし同じオフィスにいるけど、CMでも流れるような飲料品メーカーだから、営業だけでもかなりの人がいるし、直接ペアで仕事をしない限りはそれほど話したりすることはあまりない。

ない、というか、なかった。


それなのに、藤ヶ谷くんがあの朝に少し話して以来、何かと話しかけて来るようになった。

「Aさん、こないだの金曜ロードショー見ました？」

しかもすっかり映画好きだと思われてる。

「あー…見てない、です。金曜は出かけてることが多いから」

ラーメン食べに。

先週はこってりとんこつだったから今週は魚介スープのあっさりラーメンにしようってもう決めてる。

「そっか……」


「藤ヶ谷さーん、頼まれてた資料できましたあ」

桐谷さんが可愛い声で藤ヶ谷くんに声をかけた。

資料を渡す手には薄い桜貝みたいなネイルがきれいに塗られている。

桐谷さんは同じ営業事務で、一昨年新卒で入ってきた時はすごく可愛い子が入ってきたって社内で噂になってた。

「ありがとう」

「急いでしたんですよ。今度ご褒美にご飯連れて行ってくださいね」

ナチュラルな誘い方するなあ。

しかも美男美女だから絵になる。

そんなことを思いながら仕事に戻った。


働くのは嫌いじゃない。

自分で優先順位をつけながら、与えられた仕事をこなして。

定時ぴったりに帰ることができた時は、充実感がある。




・




今週はイレギュラーな仕事が多かったこともあってなかなか定時で帰れなかった。

けど、金曜日の今日はいい感じに仕事が片付いて、たぶん定時で帰れそう。

帰りに本屋さん寄ってユウタが表紙の雑誌買って、魚介系ラーメン食べて帰ろう。

雑誌はネットでも予約してるけど、店頭に並ぶユウタが見たい。

と、デスクにふっと影が落ちたから、顔を上げると。

「Aさん……」

今にも泣きそうな二階堂くんが立っていた。

二階堂くんは桐谷さんと同期の新卒三年目。

よく漢字を間違えるけど、頭の回転は早いし仕事もできる。

「二階堂くん？どうかした？」

「先方に渡していた資料に間違いがあったみたいで…
俺の確認ミスなんですけど」

「どこ？」

指さされたところを見ると、計算式から全部やり直さないとだめだ。

「いいよ、貸して。こっちは私がするから二階堂くんは先方に電話入れて直接謝ってきて」

「すみません！」

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