生まれ変わっ…え？平安？２【呪術廻戦】

漆拾弐 ページ40

遺書を食い入るように見つめるAを見て、羂索はほくそ笑む。あまりにも彼女がこちらの狙い通りになってくれるので、ここで笑いをあげないかがこの男にとっての心配材料ですらあった。


(本当に面白い女だ……。会う度に私の知らない彼女の姿を見せてくれる。私が単に本当の彼女を知らないからか？いずれにせよ、嗚呼、なんと愛おしい)


宵薙A。その名声は全盛期と何ら変わらず、羂索と違って同じ姿のまま何百年もの時を生きてるというのに、その内なる姿はただの人間と何ら変わりはない。
いや、むしろどの呪術師よりも人間らしいと言えよう。

邪悪でもあり、善良でもある。なんら珍しくもない人の曖昧さが、彼女が完璧そのものの姿をしているために、酷くちぐはぐに見えた。

そんなAを、羂索はただただ愛おしく感じている。たかだか非術師一人のためにここまで感情を荒ぶらせ、仇敵である己に愚かな姿を露呈し、そのくせ彼女の呪術師としての姿は、天に昇りそうなほどの神々しさを持つ。


(これが恋というものなのか……)


恋。果たして本当にそうだろうか。
しかし、それの正体など羂索にはどうでもいいこと。

これは恋だ。今すぐこの女を辱めて、苦渋と絶望に満ちた顔を見てやりたい。
これは恋だ。その目に永遠自分の姿が焼き付いていたら、なんて素晴らしいことだろうか！

これは、恋だ。そうでなくては、なんだというのか。こうまでして彼女の目に己が映る度に昂ってしまうのは、恋以外の何物でもないからじゃないのか。


(───だが、まだ早い)


花嫁を奪うのは大掛かりな場であると、相場が決まっている。


(この女を手篭めにするのは、来たる日までお預けだ。なぁに、ここで獄門疆が手に入れば、あとはすぐの話だ)


「さぁ、返事は……」

『………………分かった。獄門疆は、やる』

「そうかい。嬉しいよ、争うことも無くて」

『余計な口は叩くなよ。私は今すぐにでもお前を殺してやりたいんだ』

「……あ、そう」


肩を竦める羂索を尻目に、Aは例の呪物、獄門疆を影の内から取り出した。その禍々しさに、特級呪物に値されるのも最もだと羂索は思った。


『……ひとつ、聞かせてもらおう』

「？何かな」

『今私がここで獄門疆を開門したら……お前を封印することはできるのか』

「……どうやら、それの使い方は知っているみたいだね。答えは否だ。生憎、私と君の間で条件に見合うような事柄はないよ」

『……ま、だろうな』

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