【テニプリ】聞く耳もたらすーその6【男主】

子供は海へ舟は水ーその35 ページ29

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「む」




「あっっっっっぶな…………！！！あっぶな！！！」







おいこの人またキスしようとしたぞ！！！！



間一髪のところで部長の口を手で塞ぎ、ぐぐぐと体を反らせて距離をとる。



眉をひそめた部長はしぶしぶと体を離しつつ、口を塞いでいた俺の手を掴んだ。




「なっ、んで………なんでそんな簡単にキスしようとするんですか…！？！？」





「だからしたかったからだってば。」





「普通の人はしたかったからって他人にキスしたりしませんってば！！
あれですか部長の家ではキスが挨拶みたいなものってことですか！？！？」




「ちがうよ」




掴まれた手を離させようと引っ張ってみてもビクともしない。

それどころか平然とした顔で掴んだ手に指を絡めてにこりと笑われる。




「挨拶なんかじゃなくて、もっと大切なコミュニケーションだよ」




「じゃあこんな風に安売りしないでくださいよ！？
あと手！手離してください！」




「ちぇー」




唇を尖らせた部長がぱっと手を話したのを見て安心しつつ立ち上がる。

完全に夜空に変わった景色を見て、そろそろ帰らないと、とTシャツについた砂を払う。




「もう…そろそろ戻りましょ。」




「そうだね。夕ご飯がなくなっちゃうかもしれないな。」




ひらりと岩場から降りた部長の言葉にそういばお腹がすいたなぁと、砂浜を歩き出した。









「…A」





ふいに幸村部長に名前を呼ばれる。

なんですか？と返しながら後ろを振り返ると、唇を固く結んだ部長と目が合った。



その頭上では少しかけた月が爛々と輝いていて、不完全な絵画みたいなその光景におもわず喉を鳴らしてしまう。




引き寄せた波の音にハッと我に返って、再びどうしたんですか？と問い返すと、





「…やっぱりいいや。


明日で最後だし、合宿頑張ろうね。」





「え、？」





「ほら、早く帰ろ！」




「あっ、ちょ、部長、手！！！」




さっきの「やっぱりいい」の意味を深く考える前に、強引なその手に引っ張られて浜辺をあとにした。




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