【鬼滅の刃】鎹烏の訓練士【冨岡義勇】

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大体、書く内容に悩むという経験がしのぶには無かった。しのぶが手紙を書く時と言えば、先程の助言のように挨拶を書いて要点を書いて結びの言葉というのが定番であって、そもそも多忙なしのぶにとってはそれ以外の内容を書く時間も惜しい。失礼になってはいけないから形式は守るけれど、必要の無い事まで書くというのはしのぶにとってあまり理に適う事ではないのだ。

しのぶの多忙の最大の理由は、毒の研究や隊士の治療であるので、それをしていない冨岡は自分よりは時間があるという事はわかっている。けれどこの男がこんな飄飄とした態で大変な努力を重ねている事もまた知っているのだ。その冨岡が時間を削って、恐らく口振りからしてさほど重要でもないであろう内容も含む手紙を書き、あまつさえ頭を悩ませている。

なんだ、この人こんなに人間なのね。

「何故笑う。」

しのぶがふっと微かに吐いた息に気づき怪訝そうにする冨岡。ああ、この人きっと何にも解ってないんだわ。端から見てもこんなにわかりやすいのに、自分では気づけないのね。しのぶは自分が聡い方だという自覚があったけれど、一般的な人間の目線も理解していたから、自分でなくてもこのくらい誰だって気づくだろうとわかっていた。そして、そんな冨岡の様子が少し自分の妹の一人と重なって、それで少し微笑ましくなってしまったのだ。

「いいえ、何でも。
　迷惑ではないでしょうから、書きたい事を書けばいいんです。あんまり長くなるのは良くないでしょうけれどね。もしも長くなる話で、それでも伝えたいなら、今度の選別を待って、終わったら送ればいいでしょう。選別が終わったすぐ後は烏匠さん達も割とゆっくり出来るそうですから。」

さあ！解決しました。私も研究がありますから、お帰りくださいね。手を一つ叩いて無理矢理に話を終わらせると、冨岡は素直にも、すまない、助かったなどと殊勝な様子であった。

これは大変行方が気になるところだ。何しろ冨岡さんは冨岡さんだし、烏丸さんも烏丸さんで鈍いからなあ。我妻くんの求婚をまったく理解していなかったし。あんなに直接的な求婚にすら目を白黒させているようでは、冨岡さんなんて一体何百年かかる事だろう。私の生きている内に少しでも進展するのだろうか。先の長さを思うと、少し不安になってしまうしのぶでもあった。

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