・ ページ28
「そう言えば、兄さん、水柱様にお目に掛かった事はありますか。」
ふと気になった。機会はそう多くないとは言え、柱様と合同任務というのも全く無いわけではないと聞く。兄ももし冨岡様を知っているのなら、寛三郎さんについての意見を聞くのも良いかも知れない。
「水柱様？…いや、無いな。
何故？」
「いえ、大した事では。」
「そうかい。」
今の寛三郎さんの状態だけを聞けば、普通の烏匠は早く引退させろと言うだろう。それが烏のためであり主人の隊士様のためだと。私だってきっとそう思うだろう。鎹烏というのは決して楽な生き様ではない。自分の生活を、力を、いのちを、凡て捧げるのだ。仕事や使命や、そんな言葉で済ますことは出来ない、正しく生き様なのだから。
しかし、寛三郎さんは続けたいと言った。そして私は勢いで、絆されて、了承してしまった。それに、冨岡様と一緒なら、寛三郎さんはもっと飛べると思った。思ってしまった。何の根拠も無く。それが何故がわからないのだ。もしも兄が冨岡様と面識が有るなら、私の気持ちの理由がわかるかも知れないと思ったけれど、そう上手くはいかないようだった。
「冨岡様かあ。
…いや、蝶屋敷でお見掛けした事はあったか。うん、でも本当にお見掛けしたくらいで、…ああ、寛三郎さんを連れていた。」
それでかい、と訊かれ、まあ、と応える。妙に察しともの覚えが良いのだ、この兄は。これも兄の社交能力が高い理由の一つだろう。羨ましい限りである。
「寛三郎さんも歳が歳だからね。引退させようとしている？」
「はい、考えました。でも…、いいかな、と、思い…まし、た。」
「煮え切らないね。」
「考えたんです、色んな事を。それなのに、私は感情で続けましょうと言いました。」
どうしてか自分でも解らないあの時の気持ちを伝えると、兄は頷きながら聞いた後、暫く考えるように黙り込んだ。あまりに長い時間黙っているから、やはり呆れられるだろうかと心配していると、また口を開いた。
「それなら、きっと大丈夫。
お前はもう十年も烏匠をやっているし、何十羽と優秀な烏を送り出してきたろう。どんな理屈を付けてもね、勘とか経験とかには勝らないよ。
特に烏匠の勘は特別だ。Aは知らないだろうけれど、あの村の人間は元元、御館様の血筋なんだよ。だから、本当にほんの少しだけ、先見の明がある。
大丈夫。自信を持っていい。兄はいつだってお前を信じているから。」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 63人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あさ(プロフ) - 光華さん» コメント自体は本当に有り難く嬉しいので、どうかお気を悪くされない事を祈ります。再度、コメントありがとうございます (2020年8月7日 7時) (
レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - 光華さん» 頻繁に改行をするものではなく、この書き方は私のポリシーとして出戻る前から確立されています。幼い頃から沢山の本を読み漁って確立された価値観ですので、申し訳ありませんが変える事は出来ません。占ツクでは万人受けしない事は承知の上ですが、ご理解お願いします。 (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - 光華さん» コメントありがとうございます。有り難い御意見ではあるのですが、途中で書きました通り指数が毎話ギリギリになってしまっていて、改行分の字数すら惜しいくらいになっています。それから、私の中での文章や小説というものは、(例によって字数が足りませんので続きます) (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - 行間をもう少し空けたらどうでしょうか (2020年8月7日 6時) (レス) id: e4678e2dff (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - stereogirlさん» コメントありがとうございます！とても励みになります。割とこだわっている部分なので、そう言っていただけて嬉しいです。これからも頑張りますのでお付き合いお願いします。 (2020年7月15日 0時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あさ x他1人 | 作成日時：2020年5月28日 1時
