兄 ページ25
うこぎの怪我は思ったよりも軽く、処置も早く終わってしまった。本当は我妻様はまだお話になりたい事が沢山あったようだが、途中でアオイさんが来て引っ剥がすように連れて行かれた。何を言われているのかも何と返せばいいのかもあまりわからなかったから、正直なところ助かった。優しい人かどうか心配していたけれど、その必要は無さそうだった。何と言うか、大変熱烈な方でした。
そして今、私はその脚で兄の暮らす長屋に向かっている。地所差配人は大層人が良くて、兄が安全も安定も今一つの仕事をしている事を知って尚、兄に部屋を貸してくれたそうだ。
柱様を除いた鬼狩り様で、定住地を持つ方は少ない。継子の方は柱様の御屋敷に住まわれるが、他の隊士様は、藤の家門の家を渡り歩いたり、蝶屋敷を拠点として動かれたり、家と呼べる場所を定められない。家族を亡くした方も多いので、身一つだからという理由もあるだろう。それに、もしもの事があった時、帰れなくなった時の事を、絶対に考えてしまう筈だから。兄は私や母にもしもの時はと頼んでいるけれど。
「臨兄さん、Aです。」
「やあ、待たせたね。よくお出でだ。」
戸口に立って声を掛けると、待つ間も無く戸が開いた。何が待たせたねだ。少しも待っていない。こういうところだ。実際本気で待たせてすまないと思っているのだと思う。兄は私をそれはそれは大事にしているのだ。私を待たせる事は罪だと思っているし、危険が及べば末世だと思っている。どうかしている。
「さあ上がって。」
「長居をする気はありません。ここで結構です。」
「そう言わずに。水臭いなあお前は。
ちょうど昨日、藤の家門の家から菓子を頂いたんだ。でもほら、俺は甘いのはあまり好きでないから。食べて行っておくれよ。」
「まあ、私は処理係ではありませんよ。」
「そう言わずに頼むよ。上等なもなかなんだ。」
「…お隣の方にでも差し上げたら。」
「いやだよ、他人にあげるなんてもったいない。折角上等な物なんだから、お前に食べて欲しいよ。」
「…そんなにおっしゃるなら頂きます。」
話している間も忙しなく変化する表情は、最終的に眩しい笑顔になり、御機嫌な表情に落ち着いた。私と兄の顔立ちはよく似ているが、あまり似ていると言われない。それはおそらくこの表情の変化にあるのだろう。基本的に人好きのする笑顔であるので羨ましい。
上がるつもりは無かったけれど、まあ構わない。お邪魔します、と声を掛けて草鞋を脱いだ。
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あさ(プロフ) - 光華さん» コメント自体は本当に有り難く嬉しいので、どうかお気を悪くされない事を祈ります。再度、コメントありがとうございます (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - 光華さん» 頻繁に改行をするものではなく、この書き方は私のポリシーとして出戻る前から確立されています。幼い頃から沢山の本を読み漁って確立された価値観ですので、申し訳ありませんが変える事は出来ません。占ツクでは万人受けしない事は承知の上ですが、ご理解お願いします。 (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - 光華さん» コメントありがとうございます。有り難い御意見ではあるのですが、途中で書きました通り指数が毎話ギリギリになってしまっていて、改行分の字数すら惜しいくらいになっています。それから、私の中での文章や小説というものは、(例によって字数が足りませんので続きます) (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - 行間をもう少し空けたらどうでしょうか (2020年8月7日 6時) (レス) id: e4678e2dff (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - stereogirlさん» コメントありがとうございます!とても励みになります。割とこだわっている部分なので、そう言っていただけて嬉しいです。これからも頑張りますのでお付き合いお願いします。 (2020年7月15日 0時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あさ x他1人 | 作成日時:2020年5月28日 1時