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「ごめんください。」
今日伺う事は、昨日の昼間に一番速い烏に口頭ではあるが伝えさせ、承知したと御返事をいただいたのでたので、御留守という事もあるまい。けれどそれにしてはえらく遅いなあと思っていると、門扉が開いた。冨岡様は、見た感じだと思っていたより大分若い方だった。
「烏匠の烏丸です。昨日お伝えしました通り、ご相談に上がりました。」
「……。」
冨岡様は私の言葉にはお応えにならず、踵を返して中に入って行かれた。しかし門扉や玄関の引き戸は開いたままである。あの烏の言っていた言葉足らずの一端が見えた感じはあるが、入れという事だろうか、それとも閉めて帰れという事だろうか。人を追い返すのに閉めて帰れは流石にとち狂っていると思うので、入れという意味にとっておく。
「失礼致します。」
玄関で履いていた草履を脱ぎ揃えて上がると、冨岡様はこちらを少し振り向かれて、また歩いて行かれる。
感情の起伏があまり無い方なのか、将又顔面の筋肉が発達し損なっているのか、表情からは何一つ読み取れなかった。私としては後者の説を推す。やはり柱様ともなると、身体の鍛錬の方を優先するあまり、顔面の筋肉の鍛錬は疎かになってしまうのだろう。かく言う私も表情の豊かな方ではないけれど。
通された部屋はがらんとして何も無く、神棚のような物と、辛うじて真ん中辺りに座布団が二枚、それから座布団の隣に寛三郎さんがいるだけという有様だった。勿論部屋はここだけではないだろうし、他人様の家の事をとやかく言う趣味も無いし、でもだからと言って客間という風でもない。
無言で、目の動きで座布団に座るよう促され、大人しく従うと、冨岡様は部屋を出て行かれた。いや意味が解らない。どうしろというのだろう。冨岡様に話があると伝えたのに、御本人が出て行かれてはどうしようもない。
「か、寛三郎さん…、私はどうすればいいのでしょう。」
「義勇ハ茶ヲ淹レニ行ッタ。」
「あ、そう…。」
それならそうと一言言ってくださればいいのに。お構いなく、なんて言う暇も無く出て行かれたから。
手持ち無沙汰というか、ぼうっと待っていると、冨岡様はお茶を持って現れた。緑茶の入った湯呑みが乗った茶托を私の前に置かれたのだけれど、御自分の分は無いようだった。
「菓子があればよかったが、人が来る事が無いから用意していなくて…買いに行こうかと思ったが、…何が好きかわからなかった。」
…悪い人でないという事は解った。
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あさ(プロフ) - 光華さん» コメント自体は本当に有り難く嬉しいので、どうかお気を悪くされない事を祈ります。再度、コメントありがとうございます (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - 光華さん» 頻繁に改行をするものではなく、この書き方は私のポリシーとして出戻る前から確立されています。幼い頃から沢山の本を読み漁って確立された価値観ですので、申し訳ありませんが変える事は出来ません。占ツクでは万人受けしない事は承知の上ですが、ご理解お願いします。 (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - 光華さん» コメントありがとうございます。有り難い御意見ではあるのですが、途中で書きました通り指数が毎話ギリギリになってしまっていて、改行分の字数すら惜しいくらいになっています。それから、私の中での文章や小説というものは、(例によって字数が足りませんので続きます) (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - 行間をもう少し空けたらどうでしょうか (2020年8月7日 6時) (レス) id: e4678e2dff (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - stereogirlさん» コメントありがとうございます!とても励みになります。割とこだわっている部分なので、そう言っていただけて嬉しいです。これからも頑張りますのでお付き合いお願いします。 (2020年7月15日 0時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あさ x他1人 | 作成日時:2020年5月28日 1時