大切な人 ページ4
はぁ、はあっ、と肩で息をしながら、私は扉を勢いよく開けて叫んだ。
髪がボサボサになっていたが、気にならなかった。
ただ、見てもらいたかった。
このお花は、
『シクラメン』は、
あなたのものだと。
若い男「大丈夫ですか…!?って……
それ…………
もしかして………」
その言葉を聞いて、私はようやく歩き出した。
『そうです』
確信した。
『これは__』
間違いない。
『あなたにお供えされた品になります』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
若い男side
あの日、俺は工事現場にいた。
大きなプロジェクトを任されて、そのプロジェクトチームのリーダーになった。
俺は設計士だった。
まだ経験が浅く、歳も若かったが、
実力はある。
そう言われて引き受けたんだ。
初めてのリーダー。初めてのプロジェクト。
家族や彼女に報告したら、俺と一緒になって喜んでくれた。
全てが輝いていた。希望に満ち溢れていた。
そして、プロジェクトが始まって数ヶ月。
全てが上手くいっていた。
まさかここまで出来るなんて…
日に日に高く、しっかりと土台ができる様子を眺めるたびに、何とも言えないワクワク感が
溢れてくる。
『順調だ』
初めてそんな言葉を口にした。
夢が叶ってから辛い日々もあったが、今こうやって見ていると、そんなことも忘れてしまいそうだった。
………楽しかったなあ…
ある夜、その日は雨がとにかく凄かった。傘をささないと、肌に弾丸の雨が打ちつけられた。
前も見えなくなり、一旦作業を中断することになってしまった。
やむを得ず、俺はぬかるみの上を走って、車に乗り込もうとした。
あと、少し
車まであと数メートル。
そのときだった
___ドガンッ
鈍い音が遠くで聞こえた。
ただ、それだけで。
俺の記憶はそこまでだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
店長side
若い男「これ、この、シクラメン…」
男は鉢を手渡されて、ピンク色のシクラメンを見つめた。
その目は、深い藍色がかっていて、でも嬉しさも混じっていた。
その鉢を持つ手が、少しばかり震えている気もした。
『きっと、あなたの大切な人からです』
確信はないけど、何となく分かる。
若い男「大切な人…」
ハッとしていた。
思い出したのだろう。生きていた頃を、笑ったあの日を。
男はシクラメンを買うと、お礼を言って、笑って店を後にした。
36人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
クルイ - リクエスト、ありがとうございます! (2021年12月2日 18時) (レス) id: 6c77753d41 (このIDを非表示/違反報告)
からちゃ(プロフ) - パトさん» パトさんありがとうございます!なるほどNGワードですか…確認します。期待に応えられるように頑張ります! (2021年5月15日 12時) (レス) id: 1908544fd9 (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - NGワードとかが入っちゃってる感じですかね……? ごめんなさい、コメントしておいて何ですがよく分かりません。この作品、とても好きなので一刻も早く更新が再開できるようになることを願っております! 体調に気を付けて頑張ってください! 応援してます! (2021年5月14日 21時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
莉亜(プロフ) - ありがとうございます! (2021年5月14日 18時) (レス) id: 08c098a676 (このIDを非表示/違反報告)
からちゃ(プロフ) - 莉亜さん» 遅くなってすみません!今さらですが、この作品は完全オリジナルなので煮るなり焼くなり好きにしていただいて結構です!早くに返信できなくて本当にすみません、、、 (2021年5月14日 18時) (レス) id: 1908544fd9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:からちゃ x他1人 | 作成日時:2020年9月24日 21時