NAGOYA-EP/ JH ページ36
【side:JH】
日本のコンビニの匂いは、覚えやすい。
冷たい空気と、独特のメロディ。
ドアが開いた瞬間はるなの横顔が少しだけ緩んだのを、俺は見逃さなかった。
——あ、今“地元の顔”になったんだろうな。
人のそういう瞬間を拾うのが、昔から好きだ。
棚を見ながら適当にお菓子を手に取って、
「ねえ、これ美味しいやつ?俺好きかな」
と、わざと日本語で聞いた。
彼女はすぐに振りむいて、同じく日本語で答えてくれた。
「はい、美味しいですよ。梅味なのでちょっと酸っぱいやつです」
その返事の仕方が少しだけ“素”に近い気がする。
よかった、日本語勉強しといて。
(……やっぱり、日本だと違うね)
さっきからずっと、彼女の日本語と韓国語の切り替わる境目を眺めている。
スタッフに指示を出すときの日本語は刃物みたいに無駄がない。
でも俺たちに話す日本語は、ゆっくりで丸みがつく。
そこに入り込みたい。
その「柔らかい日本語」の範囲の中に、自分を混ぜたい。
なのに。
さっきウォヌが頭を撫でようとして、彼女はするりと避けた。
ファンに見られる危険性を考えたら正しい判断だ。
それはわかってる。
わかってるけど——
(……“避けられる”の、あんまり好きじゃないなあ)
外にいる時は、“優しいヒョン”でいるのが一番効率がいい。
でも、はるなが日本で楽しそうにしているのを見るたびに、ほんの一ミリだけ、その仮面が窮屈になる。
俺は今、自分自身では“素”を引き出せなかった事実を見せつけられているんだ。
だからエレベーター前で、
「明日さ、朝ちょっと早く起きられない?」
と聞いた。
あれは半分は本心で、半分は戦略だ。
「朝ごはん、食べに行こ。行きたいところあるんだよ」
——嘘だ。
行きたい店なんて決めてない。
けど、「行きたいところがある」って言った方が“彼女のため”っぽく聞こえるから。
「詳しいことはカトクする」
扉が閉まる直前、視線が合う。
一瞬だけ、迷うみたいに睫毛が揺れた。
(……うん、その反応)
“断りきれないライン”に、ちゃんと収まった。
罪悪感がないわけじゃない。
でも——彼女を守りたいって気持ちと、彼女を“自分のほうに向けておきたい”って気持ちはきれいに切り分けられるものじゃない。
ベッドに倒れ込む前、スマホを手に取って明日の朝の店を検索する。
言葉の中にわかりやすくないエゴを詰め込むのは得意だ。
(日本にいる時の君を、一番近くで見るのは——俺がいい)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 137人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Linaria(プロフ) - milkvetch179さん» きゃーー嬉しいですありがとうございます😍これからも楽しんでいただけるように頑張ります🎶 (11月15日 0時) (
レス) id: 5491e187e2 (このIDを非表示/違反報告)
milkvetch179(プロフ) - 待っていました!!!嬉しいです🥺💕 (11月13日 15時) (
レス) @page3 id: 50cdaa3150 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ぴち | 作成日時:2025年11月11日 20時


お気に入り作者に追加


