lilac (ページ10)

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睫毛が動く。画面が光った携帯を見て、すぐに返事をして3分。ガチャリとドアが開いて、俺たちを見て目がこぼれ落ちそうなくらいに驚いていた。

「え、」

『ウィンウィナ、Aだよ』

「あ、えっと、こんにちは」

「…パクAです、その、えっと、」

ぎゅっと口を閉じて難しい顔をして、そうしていたかと思えばぱちっと目が開く。そのまま綺麗な中国語が聞こえて、ウィンウィンよりも俺の方が驚いてしまった。

「わ、中国語話せるの？」

「昔勉強してたから、」

「そうなんだ！これからよろしくね」

「はい、！えっと、ウィンウィンさん？」

「ウィンウィンで良いよ」

「でもお兄さんでしょう？ですよね？」

『…あ、うん、俺と同い年』

こっち来てくださいとAが手を引いて、ウィンウィンもソファーに座る。まだ半分以上あったポテトを分けて、俺にも分かるように話しているから、それにゆっくりとAが頷く。柔らかく笑った顔を久しぶりに見て、無意識のうちに髪を撫でていた。

『Aのこと、知ってる人が増えたでしょ』

「うん、そうだね」

「そういえばどうして俺を呼んだの？」

『Aが自分のこと誰も覚えてないんじゃないかって』

「え、俺だって知ってたよ？」

「本当に？」

「うん、Aは有名だったから」

口をもぐもぐと動かしたまま、嬉しいのかどうなのか、あまり分からない顔をする。口角を上げて、ポテト食べますか？とウィンウィンの口に2本差し出した。

「…その時は可愛いコンセプトだったんだけど、どうでした？」

「うん、可愛かったんじゃない？」

「どうして疑問系なんですか」

「だって可愛いじゃなくて、Aは綺麗の方が似合うよ」

2本のうち1本を取って、ウィンウィンがAの口に入れる。難しい顔をせずに自然に笑って、一瞬だけ俯いたまま息を吐く。

『A？』

「ちょっと用があるので、もう行きますね」

「どこいくの？」

「難しい話をしに行きます」

「難しい話？」

「うん、ポテト、ありがとうございました」

携帯が鳴って、ドアが開く。トレーナーのヌナの声が聞こえて、誰かといたの？と言う声になんでもないですよとAの声が被さる。

「あれ、A忘れ物だ」

『明日集まったあとまた会いに来よう』

「楽しみだね」

ヘアクリップをポケットにしまいながら飲んだオレンジジュースは、少しだけ味が濃かった。