花束をはらはら ページ21
○
息が詰まる。しゃっくりを止めるとか、びっくりして急に息が止まるみたいな反射的なものじゃなくて、じわりじわりと体が動かなくなる。柔らかいソファーにそのまま沈んで、そのまま、沈んでいってしまう。
「…ラ、リラ、A」
『……わ、』
「大丈夫？氷みたいだったけど」
そういえばいつからここに座っていて、いつからテレビは流れていたんだろう。あったかいもの飲む？と言ったロンジュンに頷いたけど、クーラーの風が前髪を揺らしている。
「熱いから気をつけて」
『うん』
「Aが思ってる2倍は熱いから」
『…わたしがいつも火傷すると思ってる？』
「でもまあ、氷が溶けるにはちょうどいいよ」
テレビ見てないよねと言って、頷いた2秒後に真っ暗な画面になる。横を向いたら当たり前だけどロンジュンがいて、ソファーから背中を離した。
『さっき、』
「さっき？」
『さっき、何か言おうとしてた？』
「あ、帰らなくて大丈夫？って聞こうと思って」
『…あ、そっか』
「泊まってく？誰かの許可とかいる？」
『誰の？』
「誰のだろ、別に良いか」
作ってくれたのはミルクティーだった。甘くなくて、少し牛乳が多くて、2人とも話さない空間の中に、誰かの部屋で流れている音楽が聞こえてくる。チソンかな。
「ヘチャニが、Aは息してるかって」
『…してるよ』
「連絡返してあげて、通知消してるでしょ」
『通知っていうか、携帯ごと消してるっていうか』
「今はスイッチオフなんだ」
『そう、リラスイッチはオフ』
「Aのスイッチもオフしかけてたけどね」
湯気が消えて、瞬きをすればその音が聞こえる。時計の音も、ロンジュンが持つコップの氷が溶ける音も、自分が息をした音も。ゆっくり深呼吸をしたら、ロンジュンの手が背中を摩った。
「人は自然と息をするけど、それは生きていくためだけじゃなくて、話すためなのかもね」
『話すため？』
「ひとりで凍ってしまう前に、誰かが熱を分けるため」
『今はロンジュニがわたしを溶かしてくれてたんだ』
「そうだよ、だから今のうちに早く寝なね」
『ロンジュニの部屋の、あれ貸してほしい』
「好きなだけ貸してあげる」
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作者名：yom | 作成日時：2022年12月5日 18時
