�� ページ16
○
「チソンイがね」
『うん？』
「前にわたしに手紙を書こうとしたんだって、知ってた？」
『チソンが？全然知らなかった』
「それ聞いて、戻って来なかったらもう会えなかったんだなあって」
車に乗る時までAの手を離さなかったチソンは、今は静かに眠っている。Aと会えた瞬間ぽろぽろ涙を溢していて、Aの目にも薄く膜が張っていた。助手席に座りながら、後ろにいる2人をこっそりと見る。チソンの髪を撫でていた。
「これはマークにだけ言うけど」
「…俺も聞いてるけど」
「オッパは運転に集中してください」
『俺だけ聞くから、どうした？』
「わたしね、最初は断ったの」
何をなんて聞かなくても、想像なんて簡単にできる。それでも、Aをここに引き留めたのはデビューという言葉だ。例え望んでいた形とは違っても、例え、ただ嬉しいだけのデビューではなかったとしても。
「聞きたくないことも、見たくないものも、これからたくさんあるかもしれないけど」
『…うん』
「でもね、どうしてもデビューしたかったの」
窓の外を見る、横顔が綺麗だった。初めて会ったとき消えてしまいそうな時から、俺もAも少しだけ大人になって、これから飛び込む世界が綺麗なものだけではないことを知っている。俺は手を離さずにいられるだろうか。ひとりの兄として、ひとりの仲間として。
『ジェミンがAを見つけた時から、思ってたことがあって』
「なに？」
『Aが戻ってきた時、俺はあの頃より成長して、あの頃よりもっと、Aを守れるはずだって』
「…マークは前からかっこよかったよ」
『でも、今度は俺だけじゃないから』
Aと一緒にデビューすると聞いた後、7人で顔を見合わせた。実はこの後宿舎に呼んでパーティーをする予定なんだけど、Aは喜んでくれるかな。ジェノから通知がひとつ届いて、後ろを振り返った。
『ドヨンイヒョンにジェノ怒ってなかったって言った？』
「……なんでそれを知ってるの？」
『ジェノが絶対Aを捕まえておいてって』
静かに目を合わせて、ゆっくりとAが目を瞑る。フリをするだけだったのにすぐに静かになったから、音楽のボリュームを少し下げる。2人で眠っている写真をグループに送ったら、ジェミンからスタンプが返ってきた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 887人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：yom | 作成日時：2022年12月5日 18時
