胃袋を掴んでしまった、という話。【rbr】 (ページ32)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:51,271 hit

つらさページ32

『………。』

「"…引くか思てあんまり言い出さんかったんよ。もしかしたら嫌がられて会われんなるかもしれへんし。
でもそれより、黙って見とく方が辛かったから。"」

言葉が、出なかった。
好きだった？自分のことが。

『…いつぐらいから、好きでいてくれたん？』

「"あー、前に電話して遅刻やなんやーって言ってた時のちょっと前ぐらいやろか。かっこええなーって思ったら可愛いなーって思ったりして、そしたらまあ…そういうことや。"」

なら。

なら、彼女はどれだけ辛い思いをしたんだろうか。あの時、彼女へ何気ない言葉として伝えたものは、彼女にとってはひどく、酷だったんじゃないのか。

『…無理、させてしもだな、遥。』

「"……迷惑かけてなんぼなのが私達やろ？"」

『…せやけど、な。』

沈黙が続いた。苦しい時間だった。
彼女がどんな顔をしているのか、どんなことを思っているのか分からなくて、少し怖かった。

『…自分は確かに、女か男か分からへんよ。それは見つけるべきものなんかも、よく分かっとらん。
でも、自分は…遥と仲良うおりたい。その…恋人にはなれん…。けど、遥は自分にとって大切な人や。なくしたくない。』

「"…なんや、振られたかあ、わたし。"」

辛そうに、彼女は笑った。乾いた笑いだった。
でも涙はきっと、滲んでいた。震えている。

『…自分はまだ、遥と笑ってたいんや。』

「"……どこでそんなイケイケな言葉覚えてきたんよ、あんた。"」

『お前は言葉が古すぎんねんな』

あはは。
この空間が、辛かった。思い空気がのしかかって、息苦しい。

「"…でも、そっか。いや、嬉しかったわ、自分の話聞いてくれて。"」

『聞くことしか出来へんよ。自分も…色々、整理するわな。くれぐれも病んで飛び降りとかせんといてや。遥がおってくれへんと、』

「"お世話係おらへんくなる、やろ？それぐらい分かってるて。そんな弱っちい女ちゃうしな。
…じゃあ、また今度な。"」

『おう、せやな。また連絡するわ、じゃあ。ありがとうな。』

ぷつ、と向こうから電話は切れた。溜息にも近い息を吐き出すと、後ろから呼びかけられた。

「あー…すまん、聞かん方がええとは思ってたけど…なんや、わ、別れ話か？」

『いえ…友人から好きだと伝えられて。…その子とは、いい関係で居たかったので、断りましたけど…。』

呂戊太さんは、何も言わなかった。そおか、と私の手を引いて、帰路をたどった。