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Aは、丸太の影に隠れながらその様子を見ていた。大きな鋸を振り回すカク。ルッチは足を上手く使い、パウリーはお得意の縄を。ルルは持っていた銃を向け、明らかに、ガレーラカンパニーが優勢だった。
「嬢ちゃん」
「ひっ」
肩にポンと手を置かれたと思えば、Aは口元を押さえられた。ニマニマと下劣な笑みを浮かべた海賊の一味は、彼女の首元に刃物を当てながら、表へと出てきた。
「やめときなお兄さんら。この嬢ちゃんがどうなってもいいなら、そのまま暴れてくれたっていいが、な？」
Aは歯を食いしばっている。恐怖か、翡翠色は濡れ、今にも雫がこぼれ落ちそうで。彼女は、静かに手首にかけていたブレスレットを強く握った。
＿＿以前、少女が言葉にしていた。大切な、母の形見なんだとか。幼い頃に母に作ってもらったブレスレットで、形は少々歪なものの、丈夫に出来ている。
海賊は、彼らの動きが止まったのを確認すると、ゲラゲラとまた下品な笑い声を上げた。イラつきからか、パウリーは舌打ちをする。それと同様に、カクは腰につけていた彫刻刀を手に取った。
＿＿その時だった。
声にもならない。けれど息にすら程遠い音が、少女の、Aの喉からか細く鳴った。
は、はっ、と息を吐き出すが、その度に大きく、うるさくなる。
「おい女！うるせェぞ！」
「は、ひゅ、ひゅっ、ぜ、ぜひゅっ、ぜひゅっ、」
「ちぃっ…！」
Aの首に当てていた刃を振り上げ、彼女を刺そうとした。＿＿が。
運が良くか悪くか、力が抜けるように膝から崩れ落ち、Aはその場に倒れ込んだ。意識は辛うじてあるようだが、その過呼吸の酷さはその肩の揺れで分かるほど。
カクが、Aが倒れたのを見て彫刻刀を海賊の方へと勢いよく投げる。そのまま全力で走り、1番近い海賊を蹴り飛ばすと、そのまま彼女を抱擁した。
「大丈夫じゃ。」
ゆっくり息をしろと、カクが彼女の背を撫でる。吸って吐いて、と言う姿はまるで子供をあやすような。
けれどその声とは裏腹に。深く被った帽子から見えた彼の瞳は、鋭く海賊を睨んでいた。
「…少し休んでおれ。ルル辺りに任せておく。大丈夫。大丈夫じゃからな。」
カクはAの瞼が徐々におりていくのを確認した後、海賊共を睥睨した。
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作者名：はしばみ | 作成日時：2022年11月11日 0時
