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よっこらしょと、Aが持ってきていた雑巾を手に取り、カクとパウリーは床を拭いていた。＿＿だいぶ荒らしてくれたのうと、カクは苦笑いを浮かべて。
「悪酔いは人に迷惑しかかけんのう。なぁ、パウリー？」
「あ？おう。」
皮肉も込めて言ったつもりだったが、カクの言葉にパウリーは気づかなかったようで。やれやれと言うようにため息をつき、カクはごしっと床を擦った。
「カク、Aにもう上がれと伝えてくれるか。」
「おお、分かったわい。」
「悪いな。」
静まり返った酒場の中で、彼らの声だけが、響く。床に散らばったグラスの破片を一つ一つ拾うブルーノの隣を、カクは通り過ぎてカウンターの奥へと入った。
更衣室。そう書かれた扉を開き、カクは奥に立っている人物を見た。
「A〜、ブルーノの奴がもう上がれ…と＿＿」
パサリと上着を脱ぎ、その肌色に映された＿＿浅黒い、痣。酷く付けられたそれは女子の体とも思えないほど、痛々しくて。
＿＿あ。とAが息を漏らすように声を出した。それと同時に顔がみるみる赤くなっていく。
「っ、わ、るい！」
バンッ！と勢いよく扉を占める。＿＿見てしもうた、とずるずるとカクはその場に座り込む。扉の向こうから、蚊の鳴くような声でAの声が聞こえた。
「すっ、すいません、か、鍵かけとけば良かったですね…」
「……いや、わしがノックせんかったのが悪い。すまんかった。」
「い、いえ…。」
沈黙が続く。先程より、もっともっと気まずい、空白。＿＿やってしもうた。カクはそう思った。決して覗き見るつもりではなかったものの、こんなラッキー…じゃなくて。これじゃあ嫌われるのは確定じゃろ…。うあああ…。
「…A、…あー、ええーと、…ブルーノが、もう上がれと言うておるからな！それを伝えに来たんじゃ！…ええと、それだけじゃ！」
ばたばたと、慌ただしく酒場へと戻る。わし最悪じゃ。めちゃくちゃ最悪じゃ。
＿＿ましてや、いちばん見られたくないであろうものを、わしに見られてしもうたんじゃ。出来れば、本社まででも送るぐらいの償いはせんとな…。
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作者名：はしばみ | 作成日時：2022年11月11日 0時
