三日目、症候群。 ページ15
「だいぶ体の傷は治ったな。」
「それでも痣は酷い方だ。まだまだ残るだろう。骨まで行ってないのが不幸中の幸いだな。」
だが痣や切り傷程度で済んで良かったと、グルッぺンは静かに微笑む。
確かに、グルッぺンのように買われる人間もこの世にはごまんといる。中にはグルッぺン以上にひどい仕打ちを受ける奴だっているだろう。
何かの行為を要求されても、彼らのような立場には拒否権は無い。それが世の規則であった。
盗み、雑用、或いは体を繋げることまで。彼ら家畜は、言うことを聞かないと生きていけない。
奥歯を噛み締める。
「…お前も、経験したことが?」
包帯を巻く手を止める。青と猩の双眸がこちらを見ている。
いや、と返事をしAは包帯へと目を落とす。
「家畜になったことは無い。」
Aが軽く傷口を押すと分かりやすくグルッぺンは痛がるので、
「少なくとも、お前よりは酷かったろうな。」
包帯を結び、治療は終わり。
「昨日のケーキがまだ余ってたはずだが…食べるか?」
「いいのか!?」
相変わらずがめつい。いいぞとAが返事をすると、グルッぺンはたったっと駆けて行った。
「今日は少しばかり出かけてくるよ。」
食堂でもっきゅもっきゅと美味しそうにケーキを食べているグルッぺンにAはそう言う。どこへと首を傾げるので、他国とAが答える。
「…それは、W国?」
「いや、別だ。仕事上の関係でいかねばならんでな。昼までには帰って来れると思う。腹が減ったら自由にパンを焼いてくれ。」
Aはローブの紐を結び直す。ふと、グルッぺンの顔を見ると、なんだか眉を下げていて。
「…直ぐに、帰ってくるように。」
「………。」
嫌に真剣な目をしているので、Aは嘆息したあとガシガシと頭を搔いた。
「それはただのストックホルム症候群だ。変な感情移入はやめておけ。お前まで首を絞めることになるぞ。」
「………。」
行ってくると、Aは食堂の扉を閉め出ていった。
ひとり、グルッぺンは食堂の中で振り時計を眺め、
「…そんなものでは、ないのだがな。」
静かに、言葉を漏らした。
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かきくけの(プロフ) - すごい、作品ですね…(小並感)久しぶりに神作品に会えました! (2022年10月15日 7時) (レス) @page24 id: e7af349437 (このIDを非表示/違反報告)
名無しのサメ(プロフ) - 神様ですか?神様ですね。こんな、素晴らしい作品を作っていただき、ありがとうございます! (2022年10月6日 8時) (レス) @page24 id: fed687ffc2 (このIDを非表示/違反報告)
月の光 - おっと神のような作品を見つけた。オークションものは結構あるけどネタ物が多いからこんな感じのすごくうれしいし好みです!!応援しています! (2022年10月1日 22時) (レス) @page5 id: f3c01cad39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はしばみ | 作成日時:2022年10月1日 16時