2-6 side:K ページ10
2-6 side:K
「そっちへ座っていいか？」
ゆったりと立ち上がり、俺の方へと歩み寄ってくる藤ヶ谷。俺は思わずソファーの上で身を丸くするようにして身構えてしまう。俺の隣に腰をかけ、突然俺の肩をグイッと抱く。藤ヶ谷の胸に顔を埋めそうなくらい抱き寄せられて、俺はびっくりして顔を上げた。あまりにも目の前に突然映りこんでくる藤ヶ谷の表情は――またちょっとだけ意地悪そうに口元に笑みを浮かべていた。
「な、何・・・！？」
「・・・どーぞ、俺の香水の匂いが気になってたんでしょ」
当ててみて、と耳元に囁かれ、甘やかな吐息と低い声に思わずブルッと身体を震わせてしまう。それでもこの背徳的な誘いが魅力的過ぎて逆らえない自分もいて――俺は引き寄せられるままに藤ヶ谷の胸にもたれかかる。藤ヶ谷の良い香りは全身から漂っているのだろうか――こうして腕の中にいるだけで、ふわふわとした気持ちになってしまう。
「どう？」
「・・・いい匂いってことしか・・・分からない・・・」
何だそれ、と藤ヶ谷の手が俺の頬を撫でる。きっと俺はさっきのバーでお酒と藤ヶ谷の匂いに侵される様にして酔っているんだ――だから、今は、正常な判断ができないだけ。目の前にいる初めて会う男が、顔を近づけてきてもその瞳を見つめ返すことしかできない。
「・・・キスは、経験あるんだよな？」
「あ・・・待って・・・んっ」
押しのけようと咄嗟に差し出した手も、唇が重なった瞬間に縋るものになり、ギュッと藤ヶ谷のシャツを掴んでしまう。嘘なんか吐くんじゃなかった――きっとばれてしまう、経験なんてないんだってこと。マシュマロみたいに柔らかい感触なのに、注ぎ込まれる熱の強烈さに自分の身体が蕩けてしまいそうになる。唇がゆっくりと離れていくと、急に支えを失ったかのように、俺はまた藤ヶ谷の胸にくたっとしなだれかかってしまった。
「・・・藤ヶ谷・・・」
だから、どうして俺にキスをしたりするの？と込み上げる質問が、唾液と共に口の端から零れ落ちる。すると、藤ヶ谷がそっと俺の髪の毛を撫でて、前髪をかき上げられた額にそっと口づける。
「なら・・・お前はどうして今、俺の唇を受け入れたりしたんだ？」
「・・・っ・・・」
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作者名：ほわわ
| 作成日時：2019年5月7日 0時
