5-15 side:K ページ44
5-15 side:K
玉にそっと抱き起され、その腕の中に俺はスッポリ収まっているかのような体制になる。ふわふわとした優しい男の子の表情とは対照的に、しっかりとした筋肉がついている胸板が逞しくて、俺はドキッとしてしまう。玉が俺の首筋に顔を埋め、こっちにも付けておくね、と玉の唇にきつく吸い上げられる。
「やぁん・・・っ、玉・・・」
「・・・可愛い声」
もっと聞きたくなっちゃう、と玉は俺の頬にそっと唇を寄せた。
「昨日とは違うけど・・・今日もミツ、ほんのり良い香りがするね」
「・・・っ、えっ・・・」
今日は何の匂いかな、と玉がクンクンと鼻を動かす様子を見て、俺は困ったように唇に孤を描いた。
「“ミツ”だから甘い香りがするのかな」
なんてね、とペロッと舌を出す玉はちょっとあどけなく見えて、その純粋な姿に俺は胸を高鳴らせてしまう。けれど、自分の昂る熱には緊張が含まれていることを感じた。俺は今日も香水なんかつけていないし、ましてや謎の薬をつけているわけでもない。自分がもし香るのであれば――それは藤ヶ谷の残り香なのだろう。俺は誤魔化すように、もう一度玉の胸に身を寄せてみる。スゥッ・・・と大きく息を吸いこんでみると、玉からは――
「た、玉は何の香水つけてるの？」
「俺？今はつけてないけど・・・柔軟剤の匂いかな」
「甘いけど清潔感のある香り・・・俺、好き」
「ありがと、ミツ・・・本当に優しくて純粋だね」
褒められて優しくされるたびに、胸の中が締めつけられるかのような感覚を味わう。その言葉を鏡のように全て返したい――どれだけ愛情を向けてもらっても、今の俺は卑怯な噓つきなのだから。
「キスは・・・もっとしていい？」
「・・・うん・・・」
拒む理由はなかった。優しく髪を梳かれ、その心地よさに目を閉じると、玉の唇が自分のそこに到着したのが分かった。ゆっくり唇を押しつけあうようにキスをしていると、突然自分のものではない携帯の着信音が鳴り響いた。その音に身体を慄かせていると、玉が眉を顰めて、唇を離していった。
「・・・ごめん、ミツ・・・ちょっと仕事の電話が入っちゃった」
「え！？あ、うん・・・気にしなくて大丈夫だよ」
出なくていいの？と俺が首を傾げると、すぐに折り返すから大丈夫、と玉はニッコリ微笑んだ。その笑顔につられて俺も笑顔を浮かべる。その仕事の相手が“悪い人”なのだろうか――
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作者名：ほわわ
| 作成日時：2019年5月7日 0時
