5-2 side:K ページ31
5-2 side:K
俺はずっと見張られてでもいたのだろうか。あまりにも手際が良すぎて戸惑いを隠せない。前のめりに座席に倒れこんだ俺の上にその男は無遠慮に乗っかってきて、俺は簡単に後ろ手に縛られてしまった。出して、という合図がかかり、車は何事もなかったかのように走り出す。突然の出来事に俺は目をパチパチと大きく瞬きを繰り返すことしかできなかった。男は抱き起した俺の口をタオルで塞ぎ直す。頭の後ろでタオルがギュッと結ばれた際に髪の毛が巻き込まれてしまって痛い。俺の肩を抱き寄せて動きを封じながら、男はどこかに電話をかけ始めたようだった。
「あ、宮っちだよーん」
俺はこんなに絶体絶命を感じているのに、その男の軽い口調に気が抜けてしまう。
「うん、うん、大丈夫、ちゃんと捕まえたよ。無事、無事」
全然無事じゃない！と俺は思わず“宮っち”を睨みつけてしまう。だが、電話の相手に夢中なようで、まったく俺に気を止めようともしない。
「んー！」
「聞いてた通り可愛いじゃん。ちょっと手を焼いたけど・・・そうだね、可愛い。猫耳メイドとか似合いそう」
一体どんな会話のやり取りをしているのか分からなくて、俺は眉を顰めた。
「オッケー！じゃあ、VIPルームに連れて行って準備しておくよ」
今の時間は誰も使っていないよね、と宮田は腕時計に目をやったようだった。
「また後で・・・待ってるよ、玉」
「・・・っ！！」
ピッ、と電話を切った“宮っち”の視線がようやく俺に向けられる。だが、そのとき俺の瞳は、その手に握られている携帯電話を見つめていた。穴が開くほど見てもその先にいる人間の姿など見えるはずもないけれども――向こう側にいたのは、玉で間違いない。
「んっ、そんなに携帯電話を見つめてどうしたの？」
「・・・んぅ・・・」
「向こうに着いたら外してあげるからねー」
子供を宥めるかのように、肩を抱いていた“宮っち”の手が俺の頭をよしよしと撫でてくる。そればかりか、小動物にじゃれるかのように、俺の頬に自分の頬を擦り寄せてきて、さすがに俺はゾワッと駆け巡る震えを抑えきれそうになかった。
「宮田様、まもなく到着です」
宮田だから“宮っち”なんだな、と俺はどこかで納得してしまう。
「はーい、じゃあ裏からお願いしますー」
「・・・っ」
外に見える景色に見覚えがあった。ここは昨日訪れた店――
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作者名：ほわわ
| 作成日時：2019年5月7日 0時
