4-6 side:K ページ29
4-6 side:K
「む、虫よけ？」
困ったことがあったら上手く使って、と言われて、俺は意味が分からず目を丸くした。
「とりあえず北山、次の授業が終わったら俺も向かうから・・・渉の事務所で待っていて欲しい」
「うん」
なんやかんやでよこーさんのところから飛び出してきたところだったので、すぐ戻るのはちょっと気恥ずかしいような気もするが、そんなことも言っていられない。それでも俺が恐らく藤ヶ谷に縋るような視線を送っていたのかもしれない。そっと顎を掬いあげられ、藤ヶ谷の顔が耳元に寄せられる。
「・・・後で、もっといろいろ教えてあげるから」
「・・・っ・・・」
その言葉に心臓がドクン、と高鳴る。これ以上何を教わるんだろう、という期待を――どうして出会ったばかりの藤ヶ谷にこんな想いを抱いてしまうのだろう。自分の心の在りどころがよく分からない。
「今回の仕事の話ね」
また揶揄われた！と俺は顔を真っ赤にして頬を膨らませた。茹蛸みたいにしてどうしたの、とその頬をツンツンと突いてくる。
「・・・何を期待してた？」
「・・・ふんっ、もう知らないっ！」
授業行ってらっしゃい、と俺は顔を背けて、そのまま藤ヶ谷に踵を返すようにして歩き始める。扉を開く直前に、やっぱり気になってしまって、少しだけ振り向いてみた。すると、眼鏡を外して俺を見つめる藤ヶ谷の視線が――
「気をつけて帰れよ・・・北山」
「・・・う、うん・・・」
さながら教師に注意された生徒のごとく、俺はドギマギしながら教室を出た。この心臓の高鳴りが何を意味するのか――
――引き留めて欲しかったのか、俺？
俺を射抜く真摯な瞳に、どこか喜びを感じているのかもしれない。危険な任務に片足を突っ込んでしまったことも忘れて――外に出て扉をピシャッと閉じた後、俺は自分の胸に手をあてたまま走り出した。
***
「今から北山がそっちへ向かう」
藤ヶ谷は電話をしながらテキストを整え、眼鏡をデスクの上に置く。
「ああ、後は計画通りに」
じゃあまた後で、と携帯電話を切り、唇にニヒルな笑みを浮かべると、藤ヶ谷は白衣を勢いよく脱ぎ捨てた。
「・・・あの北山の可愛らしさ・・・本当に、玉に貢ぐのが惜しくなる・・・」
だが俺の計画の成功が全てにおいて優先だ、と藤ヶ谷は携帯電話に写し出された“玉森 裕太”の名前を見て、ニヤッと笑みを浮かべた。
***
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作者名：ほわわ
| 作成日時：2019年5月7日 0時
