3-4 side:K ページ21
3-4 side:K
「・・・っ、うっ・・・！」
何が辛かったのか、怖かったのか、分からないけれど、今は涙と共に嗚咽を漏らさずにはいられなかった。抱き込まれたり、キスをしたり、そして薬を飲まされて身体を――自分の人生が変わった夜だったことは間違いない。よこーさんのエプロンを濡らし鼻を啜ってしまうとさすがにちょっと申し訳なく思ってしまった。次第に背中の大きな息づきによる揺れも治まり、俺はそっとよこーさんの胸板を押して、顔を見上げた。優しい笑みで微笑むよこーさんは――やっぱり聖母のように見える。本当は怒りをぶつけようなんて思っていたのに、今はこうして現実に戻って来ることができたことに感謝したい。昨日の夜の出来事はきっと悪い夢だったのだから。
「落ち着いたかな、みっちゃん」
「・・・うん・・・」
「じゃあ冷めないうちにご飯食べて」
もう一度小さく頷き、俺はよこーさんに促される様にしてゆっくりと立ち上がりイスに腰かける。恐る恐る座っては見るが、特に下半身に違和感もなく――思ったよりも身体に痛みは残っていないものなんだな、と俺は少しだけ自嘲的な笑みを零してしまう。意識をなくしていたからなのかそれとも――テーブルに置かれた味噌汁から立ち込める香りに俺は恍惚の笑みを浮かべた。ゆっくりとよこーさん手作りの朝食の味を噛みしめる。昨日食べさせてもらったお寿司もとても美味しかったけれど――こういう優しい味の方が身に染みて美味しい。身の丈にあったことをすれば良かったのかもしれない。ちょっとだけ楽をしようとしてお金を稼ごうとしたから――
「おいしかった、よこーさん」
「良かった。今、お茶入れるね」
よこーさんに淹れてもらった温かいお茶を飲んで一息つくと、よこーさんが苦笑いを浮かべながらテーブルを挟んで俺の前に座る。
「・・・せっかく落ち着いたところ悪いんだけど・・・少しだけ仕事のお話をしてもいいかな？」
「・・・うん・・・」
よこーさんから目を逸らすかのようにお茶に視線を落とし、俺はコクリと頷いた。まずはこれを、とよこーさんは俺に茶封筒を差し出す。
「報酬の5万円だよ、お疲れ様でした」
「・・・ありがと・・・でも俺・・・」
「ん？どうしたの？」
「・・・結局、何もできないまま、多分、気を失って・・・」
玉に圧し掛かられて、この場所で目覚めるまでの記憶がまったくない――
「・・・そう言えば、俺、どうやってここまで・・・」
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作者名：ほわわ
| 作成日時：2019年5月7日 0時
