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今、危険を承知で「ドルー」を助けに行くべきか? 今確認できる敵は、矢を放ってきた者一人だ。近距離まで入ってしまえばこちらのもの。しかし、もし近接もこなせる手練れであれば? どんな相手だろうと、最低でも足止めくらいはできる自信がある。しかし、ルカ一人に子供六人を預けるのは――。
そう逡巡したのは、そう長い時間ではなかった。良案の浮かばぬ自分が歯がゆく、苛立ちのあまり舌を軽く噛む。
しかし、彼が決断する前に乾燥した革の音、馬のいななきが闇に響いた。
そのまま馬車が走り出したので、ケントを抱えたままつんのめりそうになったところをユアンはどうにか支える。正面の景色は、みるみる遠くなる。
判断の必要がなくなったことに安堵――しかし同時にわずかに後悔しながら、ユアンはあり得た他の選択肢を息と共に飲み込む。水分のない口腔では難儀だったが、それでも無理やりに飲み下した。
「すみませんユアンさん。――非常用の手段でしたが、アイツに頼りましょう」
「分かってる、迅速な判断だ、助かった」
振り返ることなく、ルカは馬にさらに鞭を入れる。
そしてそのまま、姿勢を崩さず、前を見据えたまま呟く。
「『会話は文明そのものである。言葉は人と人とを結びつけ、沈黙は人を孤立させる』――」
小さくなっていく屋敷を見つめながら、あ、あ、あ、と言葉にならない言葉をケントは漏らしていた。かける言葉を失ったユアンは、黙って彼をサラの隣に下ろした。
大丈夫よ、きっと。あなたの弟なんでしょう。そう言って、サラは彼の頭をなでる。しかし、ケントの表情は晴れることがない。
んんん、と困ったように眉を寄せた後、あ、と小さく声を上げてから彼女は彼の耳に口を寄せた。
「ああ、えっとじゃあ、これが気休めになるか分かんないけど――思い出したわ、あんたが言ってた女の子のこと」
返事はない。今はそれどころではないらしい。少し不満そうにしたあと、勝手に話すから、というように彼女は言葉を続けた。
「あの子、ケントが脱出した日に牢からいなくなったのよ。どうやらあの子、侯爵の娘らしいよ。お父さんがやってることを見過ごせなくてあたしたちを助けてくれた、とかじゃないかな。だからきっと、あの子も大丈夫。もちろん、ドルー君も」
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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)
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