私の背中は ページ25
「それでは俺からは以上だ。あとはどうぞ、ディアモールさん」
ぶっきらぼうにゲレオンは自分の役目の終了を告げる。椅子を引いて、どすん、と荒っぽく座って一度天を仰いだ。
そんな小馴れた彼の様子とは対照的に、はい、と硬くアズサは立ち上がる。意識していれば、彼女が緊張していることにも、それを周りに悟らせないようにしていることも見て取れた。それを皆が気づいているのか、その上で見ないようにしているのかは分からないが。
ただ一人、エミリアだけは心配するような、けれど動いたり声をかけたりはできない――居心地悪そうに、視線をアズサの顔から、腰のあたりへ下げる。何か言いたげに唇に手で触れたが、一度瞬きをしたと同時に、その手は膝の上へ戻る。
アズサ自身、彼女は「やりにくい」と少しだけ感じていた。騎士は自分だけ、そして作戦メンバー――すなわち今回部下となる人々は、階級は下とはいえみな年上。経験も自分よりはるかに豊富に違いないし、この会議での振る舞いにも卒がなかった。
視線が集まる。侮られたらどうしよう。頼りないと思われたら。
けれど。思い出すのは、マントを翻す凛々しい背中。一切の妥協と容赦を持たない、冷たい――けれど、奥で確かに炎が燃えているあの人の。
あの背中に並びたい。私はそう思ったから。
すう、と息を大げさに吸う。その呼吸音が合図であったかのように、従騎士たちは立ち上がった。皆背筋を伸ばし、王の玉座のある方向――北東へ。自然、青々とした新緑の見える窓が皆の視界に入った。
「それでは、理性ある、真に平和な国家の創造に近づくため――」
彼女の掛け声に対し、「野生の浄化を」と定型文が続く。
その言葉を、アズサの唇は大きく。ゲレオンとネロは、あくまで儀礼的に。エミリアは、己に言い聞かせるように。そしてリュカの唇は――ちょうど頭をかいた手に隠され、よく見えなかった。
31人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ