焦り ページ8
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「…じゃあ今日は終わり。安東、いまのワンテンポずれてたからね」
「はい、すみませんっ」
この夏、なにわ男子の1stアリーナツアーが決まった。
メンバー各個人でもお仕事が増え、バラエティやドラマ、舞台にとありがたいことに色々な経験をさせて頂いている。
春からのテレビのレギュラーもある中で、ツアーに向けてのリハも始まり、嬉しいけどなかなかに忙しい。
今日は別のお仕事でひとりだけ途中参加になってしまったわたしは、ちょっとだけ焦っていた。
ツアーは凄く楽しみで、気合はめっちゃ入ってるけど。
気合だけじゃ、ダンスは上手くならん。
先程ズレていた所がどうしても気になって、もう一度確認しようと壁面の鏡に向き直ると肩を叩かれる。
「今日はもう、終わりやってぇ」
疲れを感じさせない柔らかな笑みで、ペットボトルを差し出してくれた大橋くん。
受け取るかどうか、一瞬迷って。
迷いを見透かしたように、ズイっとさらに突き出されてようやくありがとう、と受け取った。
「焦っても良くはならんで。明日またさっきのとこ一緒にやろぉ。せやから今日はもうおしまい」
「はっすんの言うとおりやで。あんた、倒れた前科があるねんからな」
「う…っ」
大橋くんの後ろから現れただいちゃんに痛いところをつかれた。
リハで今から根詰めて、本番にベストな状態でもって行けなきゃ意味がない。
理解はしてるつもりだけど、みんなと並ばれへんのはやっぱり悔しい。
「朔、顔ヤバイで。むくれてないでかわいくしとき」
もやもやしながら帰り支度をしていると、横から恭平にほっぺをむにむにされる。
「むくれてないもん。ヤバイ顔てどんなんよ」
ほっぺを抓まれたまま、隣のイケメンを見上げる。
こんなんやで、と得意の変顔を見せられてブハッと吹き出した。
イケメンのくせにめっちゃ振り切った変顔するから余計に笑える。
「いやや〜、ほんまにそんな顔しとったらもうお嫁に行かれへんやん」
「そしたら俺が嫁に貰ったるわ」
「老後の孤独死は免れて嬉しいけど、お世話にならんように頑張る」
確りと手綱を握ってくれるお兄ちゃん組とは違う、何気なく気にかけてくれる優しさに心がほっこりした。
ひとしきりほっぺをむにむにすると満足したのか、手が移動して頭をぽん、と撫でてから離れた。
「頑張らんでもええで。ほんまに貰ったるから俺んとこ来いよ」
「胸キュンセリフあかん」
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作者名：斗和 | 作成日時：2022年9月1日 22時
